ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

「女の子の食卓」を読み終わったのでベスト食卓をランキングする(前編)

 

志村志保子の「女の子の食卓」をご存知であろうか。

 

 

『りぼん』のお姉さん漫画雑誌『cookie』で2005年から7年に渡りひっそりと連載されていた知る人ぞ知る名作漫画である。

 

物語はすべて1話完結。主人公は番外編を除くほぼすべてが「女の子」で物語のすべてに「食べもの」が登場し、淡々と話が展開されていく。

 

どの話も取り立てて何が起きるわけでもない。派手なことがあるわけでもない。主人公の女の子のとある日常と、そのなんでもない日常の中に潜む翳りと光、切なさと甘さ、苦悩と喜びを静かにすくい取ったような漫画である。

 

その筆致はまさに『志村志保子という文学』。

 

 おいしいなあ、幸せだなあ、と思って食べたごはんも何回もあったような気がするが、その時は心にしみても、ふわっと溶けてしまって不思議にあとに残らない。

 釣り針の「カエリ」のように、楽しいだけではなく、甘い中に苦みがあり、しょっぱい涙の味がして、もうひとつ生き死ににかかわりのあったこのふたつの「ごはん」が、どうしても思い出にひっかかってくるのである。 

 引用元:向田邦子「ごはん」

 

女の子の食卓」を読んでいて何度か思い返したのはまさにそういうこと。

 

「女の子」と「食べもの」という切っても切れないふたつが描かれる中で、この世には食べものの味と人生の味のふたつの味わいがあることを知る。

読んでいて心がきゅっと締めつけられる、そんなド名作短編漫画が「女の子の食卓」なのである。

 

前書きはここまでにして、全8巻を振り返って布教を兼ねてベストランキングをしていきたい。

それでは、「私による私のための私の『女の子の食卓』ランキング」。

吟味に吟味を重ねて10皿選びました。

まずは10位からどうぞ。

(※ところどころネタバレしています)

 

 

10位 「調節できる辛いラーメン」/女の子の食卓 7巻

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 (引用元:「女の子の食卓 7巻」/志村志保子

 

田舎で育った幼なじみの仲良し3人組の一人である主人公の女の子は、幼なじみのさとると付き合っている。

高校を卒業した春のある日、主人公のもとにもう一人の幼なじみの邦博がやって来て「ふたりだけでメシでも食いに行こう」と誘われる。そしてふたりはいつも三人で行っていたラーメン屋に行くのだが…という話。

 

いつも三人で仲良くしていたから分からなかった男友達のほんとうの心。

秘密を押し殺して仲良くしてくれていた彼を思い返しながらラーメンを食べ、主人公は「つらい」と「からい」は同じ字であることに気づく。

 

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 (引用元:「女の子の食卓 7巻」/志村志保子

 

あまりにも切ない友情と恋の三角関係を描いた一編です。

 

 

 

9位 「あの町の喫茶店のドライカレー」/女の子の食卓 6巻

 

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(引用元:「女の子の食卓 6巻」/志村志保子 

 

高校を卒業して田舎から地方都市の小さな会社に就職した主人公。

会社の帰りには時々、この町で初めて食べて以来大好きになったドライカレーを食べて帰る。

 

初めての町で初めての一人暮らし、初めて持った行きつけの店、初めての仕事をこなしながら初めての恋をして、初めての失恋をして、やがて6年が経って… 

 

「独身時代」「初めての一人暮らし」という甘酸っぱい時代の中にたくさんのいいことも悪いこともあり、その記憶の折々にしおりのように「あの喫茶店のドライカレー」がある。

 

懐かしくて愛おしくて、少しほろ苦くもある温かな「あの頃」というものを表現しきった表紙が見事。

 

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(引用元:「女の子の食卓 6巻」/志村志保子
 

 

8位 「猫の好きななまり節」/女の子の食卓3巻

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 (引用元:「女の子の食卓 3巻」/志村志保子

 

『それってうちは猫にやるよ』

『猫の食べ物でしょ』

 

 

同級生同士の他愛ない会話の中で、同級生のお父さんの好物が自分の家で飼っている猫が好きな「なまり節」であることを知った主人公は、つい考え無しに発言してしまう。

それを聞いた同級生は「怒ったみたいな、泣き出しそうな」変な顔をして黙ってしまい、主人公は自分の発言が「いけないこと」だったことに気づき、同級生に謝るが…

 

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 (引用元:「女の子の食卓 3巻」/志村志保子

 

子どもの頃、いや大人になろうと「あるある」な一幕。

いやぁ、ほんと余計な一言ってあるんですよねぇ…。

 

たかが言葉、されど言葉。

しかし言われた方は忘れない。

軽々しい「余計な一言」の代償を知る痛い教訓となった子ども時代の苦い思い出を見事に描き出した一編。

 

女の子の食卓」の主人公は小学生も多いです。

こんな作品も描けちゃうんだ、というか描いてしまうんだ…と作者のテクニシャンな手腕にめろめろ。

 

 

 

7位「一人で作ったイチゴのショートケーキ」/女の子の食卓5巻

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(引用元:「女の子の食卓 7巻」/志村志保子 

 

母子家庭の子どもである主人公は気さくでしっかり者な上に料理上手で、小5の今やちょっとした大人並みの腕前。

趣向を変えて初めて作ってみたクッキーが友だちの間で絶賛されて気を良くした主人公は「もしかしてケーキだって作れるのでは」と初めてのケーキ作りに挑む。

 

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(引用元:「女の子の食卓 7巻」/志村志保子 

 

「小学生女子の初めてのケーキ作り」という、志村先生にしてはポップな作品。

…で終わるはずもなく、当然のようにラストは切なく苦い味が胸に広がります。

 

きゅっと口を結んで本当の言葉を胸にもやもやとたたえたまま食べるケーキの味と、泣きながら頬張るケーキの味。

 

読んでいて思わずのどが苦しくなる、自分の人生の『泣きながら食べたパンの味』を思い出すしょっぱい一作です。

 

 

 

6位「将棋道場のカップ焼きそば」/女の子の食卓3巻

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(引用元:「女の子の食卓 3巻」/志村志保子 

 

「将棋道場のカップ焼きそば」、なんて心惹かれるタイトルというか、なんかもうこの時点でめちゃくちゃ美味しそう

 

カップ焼きそば(カップラーメンより断然カップ焼きそば、そして絶対に日清焼そば)が大好きなんですが、子供のころからカップ焼きそばというかインスタント食品を食べると胸やけする体質なので、アラサーで一人暮らしをしている今でもたまにしかカップ焼きそばは食べません。食べるときは細胞を壊す覚悟で食べています(細胞を壊してでも食べたい時があるくらいすき)。

体に悪いのになんであんなに美味しいのか。

それとも体に悪いからあんなに美味しいのか。

 

「将棋道場のカップ焼きそば」の主人公はお母さんの方針でカップ麺禁止の家の女の子。

将棋にはまっており、半年前から日曜日は近所に住む将棋好きの叔父・礼君と一緒に道場に通っているのですが、お昼に食べるのはお母さんのお持たせのお弁当ではなく、

 

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 (引用元:「女の子の食卓 3巻」/志村志保子

将棋道場のカップ焼きそば。(なんてうまそう)

 

お弁当は礼君が食べてくれる共犯の関係で、「内緒の味」がするカップ焼きそばは病みつきになる美味しさなのでした。

そしてとある日曜日、主人公は偶然礼君の「内緒」を知ることになり…

 

体に悪いけれど美味しくて、やめられない。

体に悪いと分かっていて口にするからこそよりいっそう美味しい、背徳は密の味。

 

『私にとってこれは 永遠に内緒の味がするのです』

 

「カップ麺」と「秘密の恋」を高度に絡めた作者の抜群の技術が光る一作です。

 

 

以上、10位から6位でした。

残り5位から1位は次回に分けます。