aikoってなんか変じゃないか? と思い出したのは、さかのぼること三年前、2018年5月にリリースされた『ストロー』を聴いた時だった。
繰り返される「君にいいことがあるように 今日は赤いストローさしてあげる」の歌詞と、陽気なようでどこか台風が過ぎ去ったあとの空のような一抹の寂しさが印象的な『ストロー』は、デビューから20周年を経て発表されたにも関わらず、絶頂期と遜色ない歌唱力ときらめきが溢れる、aikoというアーティストの凄みを感じさせる一曲だった。
すごい、aiko。まったく古びていない。相変わらず恋のよろこび、せつなさがビシバシ伝わってくる。ぜんぜんちっとも変わらない。ずっと一線を走っている。ずっとすごい。いや、でも待てよ。なにか変だぞ。
なんで恋の歌を歌っているのに、こんなにもずっと変わらないんだ?
ふつうアーティストというのは年代に応じて作風が変わる。というか変わって当然だと思う。その人の内面、人生のステージ、その時そばにいる人たちに影響されてしかるべきであり、長年のファンはその変化に共感したり、心惹かれたりするものである。現に同世代の宇多田ヒカル、椎名林檎の音楽はどんどん変わっていっている。生き物たる人間が作っている音楽は、生き物のように変化する。
しかしaikoは変わらない。彼女はもう40代のはずなのである。なのに20代の時とまったく同じ濃度の恋の歌を歌っている。なぜなんだ? なぜそんな芸当が出来るんだ。
そんな私の思いを一言でまとめた下記のツイートを見た時には、首が赤べこのようになってしまった。
椎名林檎のような女性が魔女だと教わってきましたが、大人になるにつれてaikoの方が魔女だとわかるようになりました
— はくいきしろい (@hakuikisiroi) 2020年12月27日
【椎名林檎のような女性が魔女だと教わってきましたが、大人になるにつれてaikoの方が魔女だとわかるようになりました】
10万ファボリツされるほどの反響があったことから、aikoに対する私の感じ方はけしてめずらしくないと言っていいだろう。
ふつう、恋は冷める。同じ人間に対してはもちろんのことだし、違う人間相手に恋愛をしても、結局は同じことを繰り返す「恋愛」そのものに飽きてくる。たとえば恋愛強者はそうなってきた頃、結婚や子育てという別のステージに入る。だがaikoは違う。彼女は20年、もしくはそれ以上ものあいだ、ずっと相手を変えて恋をし続けている。
ずっと変わらず、いくつになってもその胸に恋心を抱いてスキップをしている女性。それがaikoであり、この不変性こそが彼女が魔女と呼ばれるゆえんなのである。
ところで、3月1日(月)に日本テレビで放映された『しゃべくり007』を見た。ふだんテレビを見ない私が、わざわざ放映時刻にテレビの前に陣取って、地上波の電波をテレビに受信させたのは、もちろん本格バラエティに初出演するというaikoを見るためである。ちなみに私のaiko知識はそれほど高くなく、ごくたまに大阪のラジオ番組に出演するのを聞いたりする程度で、ライブに行ったことすらない。いったいあの魔女がどんな話をし、しゃべくりメンバーとどんな絡みをするのだろうと、まるで予測がつかず、興味津々だった。
そしてむかえた1時間。あれをご覧になったほかの視聴者の方にはわかるだろうが、aikoのぶっ飛びかげんはすごかった。芸人としてすでに大御所となった、並みいるしゃべくりメンバーが誰も太刀打ちできていなかった。有田、ホリケンのたじろぎはもとより、司会ポジションの上田・名倉に至っては、aikoワールドに入りこむ余地もないように見えた。なぜなら、彼女は今も全力で現役の「女の子」であるのに対し、彼らは一家庭人の「おじさん」だからだ。
有田とaikoが即興で繰り広げたカップル劇は、そこらのラブコメ以上におおげさで、犬も寄りつかないほどバカバカしかった。しかしaikoは本当にあれを30年近く繰り返して生きていることを思わせるような、生々しいリアリティがあった。そしてそれらをいっさい隠そうとも思っていないaikoの姿勢に衝撃を受けた。
番組で本人も明言していたように、彼女は本当に『ヘンタイ』なのだろう。ぜんぶ見てほしいし、ぜんぶ知っていてほしい。そしてそれを歌にして歌いたい。aikoは間違いなく一流のアーティストなのだと実感した。あんな生き物はアーティストでしかないし、古今東西で唯一無二の不変の存在だと思える。優れた音楽性とはまたべつの、だれも触れられない永遠の少女性において。
これからもaikoの歌う恋の歌が、心の底から楽しみな私である。
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