2022年も残り2日ということで、今年読んだ本のベストランキングを発表します。
2022年現時点で読んだ本は82冊で、これから読もうとしている83冊目がこれまたベストランキング入りしそうな本ではあるのですが、先にこれまでに読んだ82冊から選出したベストランキングを発表させて頂きます。
今年も読んだ本に独自の判断と基準で点数をつけました。
82冊はなかなか膨大なので、90点以上を付けた本たちを感想文と共に紹介します。
なんかうっかり6,000文字超書いてしまったので、年末年始のお暇なときに、ごゆるりとお読み頂けましたら幸いです。
- 『君のクイズ』小川哲
- 『吉原御免状』隆慶一郎
- 『1945年のクリスマス』ベアテ・シロタ・ゴードン
- 『かわいそうだね?』綿矢りさ
- 『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー
- 『嫌いなら呼ぶなよ』綿矢りさ
- 『カッコーの歌』フランシス・ハーディング
- 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子
- 『汝、星のごとく』凪良ゆう
- 『方舟』夕木春央
- 『両手にトカレフ』ブレイディみかこ
90点を付けた本だけで10冊あるので、2冊だけ紹介します。
🌸マークは上半期で紹介しているので、良かったらそちらでもご覧になってください。
90点
『風が強く吹いている』三浦しをん🌸
『オーラの発表会』綿矢りさ🌸
『私的生活』田辺聖子🌸
『おそめ』石井妙子🌸
『思い出トランプ』向田邦子
『奇貨』松浦理英子
『信仰』村田沙耶香
『君のクイズ』小川哲
読む鈍器として話題となった『地図と拳』が直木賞候補作になっている、小川哲さんの最新作。
『地図と拳』が気になっているので、まず文章がどんな感じか確かめてみようという軽い気持ちで読んだら、めちゃくちゃ面白くて一気に引きこまれました。この分なら『地図と拳』も読めるかも。(640ページあるけど)
クイズ小説(なにそれ)かと思わせておいて、ミステリー小説かと思いきや、本当にむちゃくちゃクイズ小説(?!)という、これまでに読んだことがない新感覚ジャンルの小説。
当たり前だけれどむしょうにクイズ番組が見たくなる。
知られざるクイズの世界を覗き見る手引きとして最上の一冊かもしれません。
『吉原御免状』隆慶一郎
私にとって三作目の隆慶一郎作品。
本作が隆慶一郎のデビュー作だったとは知らず、『鬼麿斬人剣』⇒『影武者徳川家康(上)』の順番で来たところ、途中からいきなり『影武者徳川家康』が始まったのでちょっとびっくりしつつも面白かった。
鼻血が出そうなくらい格好いい文章の『徳川家康』時代よりもまだ未熟な文章、漫画っぽい表現、過剰なほどの主人公上げにやや首をひねりながら読んでいたんだけれど、幻斎爺ちゃんが活躍し始めたあたりからは、そのあまりの格好良さゆえに、そういった瑕疵が気にならなくなりました。
吉原の三味線・清掻で物語が始まり、ラストも清掻で終わるシーンの美しさも忘れがたい。小説なのに音楽の使いかたが上手すぎるし、脳裏に浮かびあがるような躍動的な殺陣シーンといい、さすがは時代劇のテレビドラマ出身だと思う。
実は『徳川家康』は未だに中巻と下巻を読んでいないのだけれども、こうなるとやっぱり終わりかたは『吉原御免状』になるんだろうか。
91点
『1945年のクリスマス』ベアテ・シロタ・ゴードン
GHQによる日本国憲法草案は、GHQ民政局にいたものすごい天才たちが一週間ほどで作ったということは何かで聞き知っていたのですが、人権条項の根幹を成す二十四条を作成したのは、当時若干22歳のベアテ・シロタさんという、5歳から15歳までの10年間を東京で暮らした経歴を持つ女性だったことを、別の本を読んでいて初めて知りました。
そのベアテ・シロタ・ゴードンさんの自伝が本書『1945年のクリスマス』。
一応映像化された過去もあるようですが、もっと大々的にNHKの朝ドラあたりになっていいくらい骨太で濃密な自伝で、大変に面白かったです。
ベアテさんはユダヤ人の天才ピアニストの一人娘としてウィーンで生まれ、ユダヤ人排斥運動から逃れて5歳で日本に移住し、16歳から両親と離れ一人でアメリカの大学に進学していたおりに太平洋戦争が勃発します。わずかでも両親の消息を知るために、政府管轄の放送局で日本の短波放送を翻訳する業務に就き、終戦後はGHQ民政局のスタッフとして採用され、7年ぶりに故郷・日本の地を踏みしめるところから物語は始まります。
ベアテさんを始めとした民生局行政部のスタッフの仕事は、敗戦国の行政機関の建て直しとテコ入れで、当初ベアテさんは配属された政党課で公職追放のための調査を行っていました。
ある日行政部のスタッフの全員である25名はコートニー・ホイットニー中将に召集され、新しい日本国憲法の草案を作成せよという極秘命令を受けます。この行政部スタッフはほとんどが民間出身とはいえ、全員がそれぞれの分野におけるスペシャリストでしたが、まさか自分たちが日本国憲法の草案を作ることになろうとは、この時までまるで考えていなかったとされています。おまけに期間は一週間。全員直ちに今の仕事を中断して取り掛かったのち、業務については誰にも口外するなという厳命でした。
ぼう然としながらも政党課のメンバー3人で新たな仕事を割り振りながら、ベアテさんは上司に言われます。
「あなたは女性だから、日本の女性の人権のための憲法を作ってはどうか?」
憲法草案起案を行ったこの一週間について、のちにベアテさんは、人生でもっとも濃密で殺人的に忙しかった時間だったと回想します。
自国の憲法がどのように、どんな人たちの手で、どんな思いのもとで作られたかを知り、考える。それは即ち、自分の国の歴史について深く思いをめぐらすということ。
憲法についての本を読んだのは初めてだったので、色々と考えさせられることが多い一冊でした。
その憲法二十四条がまさにこれから改正されてゆくことを考えると、とても複雑な思いではあるのですが、それでも、知って良かったと思える一冊でした。
アメリカにもどってからのベアテさんの人生のお話も、働く女性のキャリア論、人生論として読み応えのある内容で、とても面白かったです。
『かわいそうだね?』綿矢りさ
たとえ今さら読む綿矢りさであろうが、面白いものは面白い。
ポップで毒気があってぶっ飛びつつも、文章が素晴らしく上手くレトリックが天才的、そしてギャグセンも高い作家、それが綿矢りさだということをようやく知った年でした。
「よっこいせ、らぁ」タックル、私もいつでも繰り出せるように練習したい。
92点
『妖女サイベルの呼び声』パトリシア・A・マキリップ🌸
『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー
「主人公ダッチェスは、運命と戦う13歳の少女である。」
というハヤカワでの紹介文の書き出しにすべてを鷲掴みにされ、500ページを超える長編をものともせずワクワクと迎え撃ったのですが、ちょっと期待しすぎたようでした。
しかし期待値は越えなかったものの、400ページを超えたあたりからのものすごい盛り上がりには、深夜にも関わらず魂のおたけびを上げるほどでした(SNS上で)。
表紙のとおり、けっこう地味な物語なんですよね。アメリカの片田舎の、高校の時の人間関係が一生引き継がれる小さな町の独特の湿っぽさにとても既視感があって、こういうのは万国共通なんだなという、ストーリーとはあまり関係の無い部分に妙な感慨を抱きました。
93点
『嫌いなら呼ぶなよ』綿矢りさ
現代の国語と純文学の最高峰・綿矢りさの最新作。
やっぱりめちゃくちゃ面白かったです。
純文学をここまでエンタメ寄りにしながらも純文学のままで居続けるって、とんでもないテクニックだと思う。
表題作『嫌いなら呼ぶなよ』はもちろん、『眼帯のミニーマウス』も『神田夕』も最高で、もはやサービス精神で描かれたのかというような『老も害で若も輩』にはめっちゃ笑った。
綿矢りさという作家の根っこにあるものは実は「お笑い」なのかも。もう大好き!!
94点
『カッコーの歌』フランシス・ハーディング
初・フランシス・ハーディング。イギリスの児童文学系のファンタジー作家です。
読んでいて、久しぶりに「ハリー・ポッター」や「ダレン・シャン」を初めて読んだ時のあの感覚を思い出しました。
要するに、とてつもなく優れたファンタジー作品です。
舞台は第一次世界大戦後の1920年のイギリス。主人公の11歳の少女トリスは不穏な夢から目覚めると、自分の記憶がほとんどなくなっていることに気づく。なんでも昨晩池に落ちたという。8歳の妹はトリスを拒絶し、訝る両親に言う。「あれはトリスじゃない、なんで分からないの?」
誰に許されなくても、自分自身のために、自分を信じてくれる人たちのために、生きたいがゆえに戦う。
優れたファンタジーでありながら、その動脈を走るのは激アツのバトル小説という『カッコーの歌』、内容的にもビジュアル的にもめちゃくちゃ大衆映画に向いていると思うので、早くどこかが映像化してほしい…!!!
「不確かなもの」の中でしか生きられない異形の者たち「ビサイダー」のゴシックホラーなヴィジュアルデザインとか、はさみや雄鶏を嫌う性質とか、こういう細かい設定も好きすぎる。ファンタジーはディティールに宿ることを実感する。
アーキテクトとトリスタが電話で会話するシーンの異常な格好良さもたまらない。来年はフランシス・ハーディングを制覇します。
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子
東大で近代史の研究をしている著者が、東京名門私立校の歴史クラブに所属する中高校生達に向けて5日間講義した、近代日本の歴史と戦争についての考察をまとめた一冊。
歴史の本をこんなに面白いと思ったのは初めて、というくらいエキサイティングな本でした。むちゃくちゃ濃くて面白い。
歴史的にものを見るということはどういうことなのか、なぜ歴史を顧みることは重要なのか、という学問としての「歴史」を問いただす視点から始まり、
・なぜアメリカは当初の想定と異なり、ベトナム戦争を泥沼化させてしまったのか?
といった、そういえばなんでなんだろうといった歴史の疑問が解き明かされていく知的興奮といったら!
目から本を読みながら、頭がめまぐるしく「考」に動く感覚って、とても独特な楽しさと悦びだと思うのですが、本書を読んでいる間はそれが始終続くようで、読み終わった後は心地よい疲労感と満足感に包まれました。
日清戦争、日露戦争、日中戦争、そして太平洋戦争という四つの戦争、それぞれの戦争の背景にあった世界の社会情勢、そこに生きた人間が語られる。それを知ることで見えてくるもの、改めて浮かび上がってくるこの国の姿について思うと、歴史の重要さが身に染みてくるようです。
あと日中戦争の重要人物・胡適のエピソードがすごすぎて、中国という国の見方が変わりました。
来年は中国の近代史についてもちょっと(で済むか?)勉強したいな…。
95点
『汝、星のごとく』凪良ゆう
凪良ゆうも、ここまで来たか・・・。
と、読み終わったとき万感の思いに胸がいっぱいになりました。
2年前に『流浪の月』で本屋大賞を獲った凪良ゆうの最新作にして、第168回直木賞候補作。
BL作品から好きだった作家さんがこうまで一般文芸でも通用しているのを見ると、なんだかワクワクします。
本作は凪良ゆう作品では初めてと言われる、なんのてらいもない、男女ふたりの恋愛をテーマとしたもの。
17歳の時に瀬戸内のちいさな美しい島で出会った男女が、惹かれ合い、結ばれるも離ればなれになり、32歳となるまでの15年が交互の視点で描かれます。
ふたりの人間を、武骨なまでにど正面から真っ直ぐ描いた物語なのですが、それを読ませるだけの染み渡るような文章力と、ていねいな感情描写を地道に重ねることで、潜るように深い場所まで引きこまれ、一ページたりとも飽きることなく一気に読み切ってしまいました。
凪良ゆうはこの「読ませる力」が本当にすごいと、本作を読んで改めて感じました。難しい言葉を使うことなく、複雑なことも短い文章で表現しきってしまう。
愛とは、正しさとは、自立とは・・・という、これまでの凪良ゆう作品にも共通するテーマや芯の通った人生哲学を通奏低音に、暁海と櫂の15年をともに生きるような、味わい深い読書でした。
終盤ではもうボロッボロに泣きました。
私は恋愛小説だと、特に男女がすれ違う喧嘩のシーンが大の好物なのですが、本作はその部分においても極上のままならなさでたまりませんでした。
96点
『やさしい猫』中島京子🌸
99点
『破船』吉村昭🌸
このあたりは上半期のベストですね。
ということで、いよいよ100点です!
100点
『方舟』夕木春央
秋、Twitterの読書アカウントさんたちが、口々に「方舟ヤバい」「方舟すごかった」「とにかく読んで」と言うので、流行りに乗っかりたくて読みました。
めちゃくちゃ良かったです。
閉鎖空間で起きる連続殺人という極限ミステリーにして、ホワイダニット(なぜ殺した?)の傑作。
あまり深く考えず、とにかくこの船に飛び乗って、ともに驚愕してほしい。
面白さはすでに万人が保証済み。
ミステリーって面白いな~~~! という楽しさに満ち溢れた一冊。
それでは、最後に紹介する本はこちらになります。
2022年の私のベスト小説を一冊あげるならこちら。
『両手にトカレフ』ブレイディみかこ
あまりに良すぎて書いたブログ☟
出来るだけたくさんの人にこの本を読んでほしいという思いがほとばしって、先日梅田近郊で開催された読書会でもお手製のフリップを持参して臨んだところ、なんと高校教師をされている参加者の方もこの本を持って来ていて、“運命”を感じちゃいましたね・・・。
とにかく最高な小説です。こういう本を読みたくて、私は本を読んでいると言える。
今年も読書の実り多き一年でした。
来年も幸福な読書人生を送れますように。
ここまでお付き合い下さった方に、心からの感謝を申し上げます。今年一年ありがとうございました。