ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2024年7月に読んだ本

 

言語の本質/今井むつみ・秋田喜美

 

 

人間の子どもはどうやって言語を獲得していくのか?

そもそも、言語という巨大システムを人類はどのようにして構築してきたのか?

人工知能は真の意味で言語を理解するのか? 動物は?

という疑問について、言語学認知科学の両面からせまり、ある仮説を打ち立てるにまで至った一冊。

誰もが読める新書というよりは、ガチの論文をできるだけ多くの人間にわかるように噛み砕いた内容だった。つまり私にはちょっと難しいところも多々あった。もちろん面白かったところもあるけれど。

はじめに挙げた疑問は、すべてが本書のタイトル”言語の本質”とはなんなのか、という疑問に集約され、その答えはじつはすでに帯に提示されている。言語の本質、それは「オノマトペ」と「アブダクション推論」である。

子どもを育てたことがない私は、オノマトペが言語と非言語のあいだにある重要な「ことば」であることをまるで知らなかったので、非常に興味深かった。2-3歳の子どもに、ハサミでものを切る動画などを見せて、「きる」と教えて覚えさせても、条件(ハサミの色、切る対象)が変わると、「きる」が理解できなくなるが、「チョキチョキ、きる」とオノマトペを加えると、子どもは「きる」という音の本質、何を意味していることばなのか理解できるようになる。オノマトペは言語と言語でないものの架け橋の役割を担っているという。

 

 

誰が勇者を殺したか/駄犬

 

 

ボドゲ友だちの若い子に話題になっていることを教えてもらった、スニーカー文庫で久しぶりにヒットを飛ばしているライトノベル

タイトルとあらすじから、ミステリ、それも芥川の「藪の中」っぽい内容かと勝手に思って読んだので、期待外れだった。文章は異様なくらい読みやすくて、二時間くらいで読み終わった。

べつに悪くはない内容なので、小学生とか、これまで国語以外で本を読んだことがないというような、読書習慣が皆無の中高生におすすめできると思う。

 

 

今夜、喫茶マチカネで/増山実

 

 

大阪府池田市にある、石橋商店街をモデルとした町を舞台に、閉店がきまった老舗喫茶店で、月に一度人が集まって不思議な話を話していくという物語。聞き書きのような形式の短編集でとても読みやすいうえ、大阪のちょっと昔の時代もよく登場するので、大阪人の私にとっては、非常に身近に感じられる一冊でよかった。この著者の作品はこれが八作目だけれど、いちばん良い作品だと思う。

余談だけれど、この作品の作者公認二次創作を文学フリマ大阪12で発刊します。(宣伝)

 

 

百年の孤独ガルシア・マルケス

 

 

多くの読書家にとって一つの山であろう、ノーベル文学賞作家による、とある一族の百年の物語

かつていろんな人間が途中で挫折した例にもれず、私も十九かハタチのころに一度読んで、氷がでてきたあたりで限界に達してぶん投げた過去があったため、今回はあらかじめ読書会に参加を申しこんで期限を切り、自分を追いこむ状況をつくることで一週間と少しで読破した。

とはいえ、訳者の鼓直の文章がとにかく美しいため、そこまで苦労して読んだわけでもない。これは鼓直の文章がもともと美しいのか、ガルシア・マルケスの原文もそうなのかが気になる。ノーベル文学賞作家だからやはり美しいのだろうか。

つまり、たぐいまれなる美しい文章によって綴られる、変人ぞろいの一族のドタバタ、仲たがい、ちょくちょくおばけとファンタジーの、笑いあり哀愁ありふしぎありの百年の物語。昔はとても難解で小難しいイメージを持っていたけれど、かなりふんだんなユーモアがこめられた作品であった、というのが、今回の再読で得た大きな発見だった。

一人で読んでもわけがわからない場面が多いうえ、人によって場面の受け止めかたがまるで違うので、ぜひ読書会に参加するなどして、読んだ人同士でわいわい話すといい作品だと思う。私はやはり女性陣が好きだけれど、なにげに四世代目に嫁にきたフェルナンダが好き。こんなにわけのわからない話なのに、ああいう他所からきた人間が、それまであった家の決まりごとをめちゃくちゃにする妙なリアルさに可笑しみがある。

 

 

海がきこえるⅡ/氷室冴子

 

 

海がきこえるの一巻を数年ぶりに再読して、開始から50ページまでの神がかった名作ぶりに改めて感動して、まだ読んでいなかったつづきの二巻をやっと読んだ。

あんまり良くなかった。拓の土佐弁まじりの一人称によって展開された一巻に対して、東京の大学に進学して日々をすごす二巻は標準語の一人称なので、その時点でやや興ざめというもの。仕方のないことではあるけれども。

物語も、一巻の脇キャラであった津村智沙の不倫の恋の比重があまりに大きくて、私が心から好きになった「海がきこえる」とそこに期待するものが、まるでといっていいほど描かれなかったことが残念でならなかった。

ヒロインの里伽子はあいかわらず最高だったのでそこは満足。この年代の気が強くて頭の良い少女を描かせたら、氷室冴子は天下一品。

 

 

中島らもの特選明るい悩み相談室 その1・ニッポンの家庭篇/中島らも

 

 

ユーモアのある文章が読みてぇ~~~~と思って、小学生のころ一度エッセイを読んだ記憶をたどって中島らもを読んでみた。

朝日新聞の人気コーナーだった人生相談の抜粋で、ようは素人のボケに中島らもがボケ返しているやりとりであるため、いま読むと笑いが古く、当初の狙いからは外れていたものの、平成初期の日本の明るい家庭の空気が、真空保存されるように残っていて、それがもの珍しくて面白かった。せまい家で、家族全員がおなじ部屋で布団をのべて起き伏ししていて、お父さんが枕元の電気スタンドを点けて高校生の娘のコバルト文庫を遅くまで読んでいる姿なんて、日本からはとうに失われて久しい風景だろう。

 

 

以上、2024年7月に読んだ本でした。7月は月初からはじめてのコロナにかかったり、同人誌の原稿がいつもどおり書けなくてもがいたり、すこぶる調子の悪い下半期スタートを切っていたけれど、やっともろもろ落ち着きました。同人誌もぶじに入稿した。

9月こそちゃんと従来どおりの調子で読書感想ブログを書けるように、今月は自分のペースで日々を過ごしたい。