ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2024年4月に読んだ本

 

日本語のリズム 四拍子文化論/別宮貞徳

 

 

俳句(5・7・5)、短歌(5・7・5・7・7)、七五調、都都逸(7・7・7・5)など、日本語が心地よく聞こえる文章の根底にあるものは『四拍子』のリズムである――ということを、英文学の翻訳家で、元上智大学文学部教授の著者が論じた本。

面白かったし、とても納得がいく内容の本だった。日本語は極端に母音が少ない言語であり、かつ単語の六割が二音という構造から、二拍での発語が聞こえやすく、言いやすい。(幼児向けの教材の音読を思い出すととてもわかりやすい。)

二拍の繰り返しがつまり四拍子。ところが英語は三拍子であるという話も興味深かった。シェイクスピア演劇を原文に忠実なせりふとして日本語にするのは不可能らしい。



みどりいせき/大田ステファニー歓人

 

 

出だしの数ページを読んで、果たして私はこの小説を最後まで読みとおすことが出来るのだろうかと抱いた危惧が、まったくの杞憂となった第47回すばる文学賞受賞作。

ネットでも話題となった、純文学愛読者ほか多数の度肝をぬいた受賞コメントや、話題となった授賞式でのスピーチで著者の名前を聞いた方も多いのでは。かくいう私も、授賞式のスピーチにおける、著者の作家としての志の高さにすでに感銘を受けていたクチである。

 

 

 

うち ステファニー

早寝早起き 歯食いしばり

辛いゴミ拾い に従事

愛するかおりん Family にFriends

仕事仲間もとい みんなの支え

肥やしに 日々 水やり sense栽培

育ったつぼみ くだき 言葉 売買

一服したらまたね バイバイ

夜 帰り道 深く かぶり 顔隠す

championのhoodie

って感じの うちがステファニー

In da buildhing yeah

「みどりいせき」 2月に単行本出るんで

よろしくお願いします!

裁くの任せる 集英社

これから稼がせる うちら共犯者

余裕が出たら募る 他誌編集者

一緒になろうよ億万長者

 

みたいな・・・

堂々としてたいんすけど、実際今のは

ちょっと強がりっていうか

本当は気軽にハッピーなことだけ書いて

お金稼いで 家族養ってってやっていけたらなって

思ってたんですけど、なんか

いざデビューしてみると

なんか そんな成功って ぶっちゃけつまんなそう

始まってもないのに普通に不安

すばる販売されても前途は多難

書く前に人間 

生きるのは苦難

11月号販売の翌日からイスラエルハマスのテロ

「みどりいせき」へのレビュー増えれば増えるほど

比例して増すガザへの報復の惨状の報道

わけもわからず20分おきに死んで行く子ども

生きてるだけで罪悪感

社会の傷 もう見たくない

世界の裏を知りつつも 目を伏せ綴る平和な日常

そんなくだらないの書いて意味あんの?

小説家って社会に何の役に立つの?

歩みを止めて自問自答

虐殺を止められない国際社会の一員 それがウチ

あんまなめんじゃねえ

くだらんから消すことになった2作目50枚半

とにかくなりたくない恥知らずな作家

sell out 金儲け 惨めなcocksucker

そんなん恥ずかしいだけのただの馬鹿

赤に見せらんない 欺瞞まみれ 親父の背中

無理って言われても勝手にやる試行錯誤

自分なりのスタイルで

レペゼン dope 吉祥寺 from cyber hippie

ピース ハオ 中指

うちが大田ステファニー

 

「みどりいせき」は、17歳の男子高校生「翠」が主人公。ある日、小学生のころにバッテリーを組んでいた「春」と再会する。春は同級生とドラッグビジネスに関わっており、春たちといっしょにいたい翠も、ノリの延長で仕事を手伝い始めるようになる…という物語を、独特な口語体で綴った作品。

危うい青春の一幕を、そうとは思えないほど、鮮やかかつ爽やかに描ききった力量がすでに図抜けていて、著者の今後の作品を座して待ちたい。一作だけではとても判断できないくらい、大きな才能を秘めた書き手だと思う。



仮面山荘殺人事件/東野圭吾

 

 

1990年刊行。東野圭吾がまだそんなに売れていなかったころのミステリ小説。

90年当時としても、ひと昔前の雰囲気で読まれたのではないかと思うような、クラシカルな香りのただよう「ミステリ小説」という娯楽の醍醐味がつまった作品。いま読んでとくに驚くような内容ではないけれど、数時間で読めてしまうドライブ感がさすが。内容をすべてマーダーミステリーに落としこんでも通用しそうだとも思った。



怪盗ギャンビット 1/ケイヴィオン・ルイス

 

 

ハリウッドで映画化決定!世界が注目する超・話題の怪盗サスペンス小説!!

 

というキャッチコピーに煽られて、ろくに調べずにとりあえず図書館にリクエストして手元に届いてから、はじめて純然たる児童書であることに気づいた作品。

由緒ある怪盗の一族に生まれ、怪盗としての英才教育をうけて成長した17歳の少女・ロザリンが、<怪盗ギャンビット>というデス・ゲームじみた競技に挑む物語。480ページというなかなかの分量ながら、つぎからつぎへと目が離せない展開へ移り変わってゆくので、4日くらいで読んだ。

面白かったけれど、やはり子ども向けの内容なので、2巻はべつに読まないと思う。映画化したものを鑑賞したい。



波の上のキネマ/増山実

 

 

沖縄の西表島には明治時代から炭鉱があり、そこでは騙されるようにかの地に連れて来られ、過酷な労働に従事させられたひとびとがいた。経営難にある尼崎の映画館の館主で、今後の決断を迫られる主人公は、映画館の創業者である祖父がかつて西表島にいたことを知り、祖父のルーツを辿りはじめる。

シナリオスクールに通っていたころの先生の著作の一つ。9月の文学フリマ大阪で、先生の著作の二次創作をすることになったので読んだという経緯。

多分にノンフィクションを混ぜながら、映画をテーマにエンタメフィクションに仕上げた作品。二次創作をするという視点で本を読んだので、楽しむというよりは分析するような読みかたをしたけれど、それはそれで面白い読書体験だった。



ヨーロッパ思想入門/岩田靖夫

 

 

哲学の本リベンジ一作目。ちくま学芸文庫で敗北したので、岩波ジュニア新書に糸口をさぐってみたところ、大当たりだった。10代半ばあたりからを対象としているレーベルだけあって非常にわかりやすく、しかし内容は本格的という。今後は気になることはまず岩波ジュニア文庫で探してみようかと思うほど。そして本書は岩田靖夫氏の知的で典雅な文章がすばらしい。

第一章がギリシア思想、第二章でキリスト教、そしてそれらが第三章「実存の哲学」の土台にどのように入りこんでいるかを解説していく。

それほど順を追ってわかりやすく説明してくれても、カントやニーチェハイデガーの哲学はむちゃくちゃ難しくて、理解できたとはまったく言い難いのだけれど、思想って面白いなーという感想をもたらしてくれる一冊。

ソクラテスの思想の行きつく先が「人生の目的は善く生きること」であったり、キリストがいう「自分にとってこころよいものを大切にするのは愛ではなく、ただの自己愛」という教えは、人生をだいぶ生きた35歳のいま読むことでなお鮮やかに目に映るようだったし、レヴィナスの他者論はエヴァンゲリオンや、君たちはどう生きるのかのテーマで描かれていることでもあったと思う。

これまでに見た、ちょっとよくわからなかったという物語は、哲学を学んだ目でとらえなおすと理解できるのではという予感があるので、来月以降も入門書を読んでいきたい。



成瀬は信じた道をいく/宮島未奈

 

 

著者のデビュー作にして、2024年の本屋大賞を受賞した「成瀬は天下を取りにいく」の待望の続刊。前回に引きつづき最高の日常系の滋賀小説で、面白くて心地よくてむちゃくちゃ読みやすいので、しょうみ2時間くらいで読みきってしまえるけれど、ずっとこの作品世界に浸かっていたいがために、読み終えることに激しい抵抗感があった。ずっとずっと読んでいたいような小説。これはすごいことだと思う。

つまり本作は、私のような本ばっかり読んでいるような人間も楽しめるばかりか、読書をあまりしないような人も楽しめて、きっと作者にとっても、書いていてひたすら幸せを感じられるような作品だと思う。こんなに全方位に幸せな作品はそう無い。10年後も20年後も、本屋にこのシリーズが残っていることを願う。ぜひ3作目も出してほしい。



以上、今月読んだ7冊でした。

5月の読書感想は、たぶん漫画の話をすると思います。