ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2024年3月に読んだ最高の本と挫折した本

3月に早くもことし最高の1冊が現れたので、さきに書影をご紹介させて頂きます。

 

 

TATATと略したい

 

たとえ私の感想は読まなくても、『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』のタイトルだけは、どうぞ覚えていって下さい。

 

以下、今月の読んだ本。

 

 

 

 

読んだ本

書評家<狐>の読書遺産/山村修

 

 

1981年から2003年の長きにわたり、匿名書評家<狐>の名前で日刊ゲンダイの名物コラムを書いていた筆者が、病で亡くなる寸前まで連載していた書評をあつめた一冊。

『本が好き、悪口言うのはもっと好き』の高島俊男が、著書にて「嫉妬するくらい文章がうまい」というようなこと(あやふや)を書いていたので手に取ったところ、なるほど、どうかしているくらいうまい文章でした。文章を読む目が吸いついて、離れがたいと思うような美文。

書評、つまり誰かほかの人が書いたものを読んで、それについて論じたり、評したりということは、人のふんどしで相撲をとるようなものだと思われそうだけれど、この著者の手にかかると、書評も極めるとそれ自体が文芸であり、芸術になりえることがわかる。

また、私は当時の日刊ゲンダイの読者世代とはだいぶ離れた世代だけれど、本書を読んでいてふと、自分が中学生くらいのときは、このレベルの文章技術をもつ人間の文章が、まだ周りにあった気がする…と、記憶を想起させられる一幕も。ネットがまだ普及していなかった時代のほうが、いまよりも優れた書き手が多かったように思う。夕刊のスポーツ紙でこれほどの文章が掲載されていた時代は、おのずと周りの文章力も高くなったのではないだろうか。

空前絶後の読書家にして、日本最高峰の書評家だったと思う。



自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと/清田隆之

 

 

恋バナ収集をする男性ユニット『桃山商事』の清田隆之が、一般男性10人に自らの”生きづらさ”について語ってもらったインタビュー集。

一般女性である私はふだん、男性が多い会社で働いているし、20代のころ遊んでいた仲間の半分は男性だし、地元でバーテンのバイトをしていたこともあるし、30代のいま遊んでいる人間たちには男性が多く含まれているけれど、それでもこういった聞き書きを読んで、改めて得るものは少なくないのだから、人生であまり男性と関わる機会がなかったような女性が本書を読めば、もっといろんな感想を覚えることと思う。

本書を読み、その生育環境において、男にあって女にないものの最たるものは「競争」ではないかと感じた。女にももちろんなくはないが、やはり男が覚えるほど切実に「競争」させられ/してきた意識は、私にはない。5歳くらいの年齢から、ずっとどこかに競争意識を持って生きているのが「男」なら、それは確かに生きづらいだろうなと思うし、その反面、さっさと気づいて降りろよとも思う。

あと、アラサーくらいの年齢で、自分の生きづらさについて考える女性の話を、私はこれまでにかぞえきれないくらい読んできたけれど、その原因にはもれなく「親との関係」があったといっていいのに比べて、本書に出てくる男性10人たちのなかで、親との関係について話したのはわずか二人しかおらず、うち一人はDV加害者プログラムにおけるカウンセリングによって、はじめてそこに気づき得たようなかたちだったことが、もはや不可解だった。なぜ生きづらい一般男性たちのなかで、「親」は透明なんだろう……? 女性はあんなにもくっきりとしているのに、男性は関係ないなんて、ありえないのでは……?



闇の魔法学校 死のエデュケーションLesson1/ナオミ・ノヴィク

 

 

アメリカ発、大ヒットダークファンタジー『死のエデュケーション』三部作の第一巻。

 

むちゃくちゃ面白かった!!!

 

さいきん、むかし読んでいたような面白いファンタジー小説と出会えていないな…というような方におすすめしたい、面白さ超弩級の高純度ダークファンタジー

ホグワーツを100倍過酷にしたような、意思を持つ魔法学校・スコロマンスを舞台に、入学から卒業までの4年のあいだに、4分の3の生徒が死ぬという命がけの寄宿学校生活を送るティーンエイジャーたちの、青春とサバイバルの物語。

綿密に構築された物語の世界観と、魔法の設定がじつによい。やはりファンタジーの物語の面白さは設定とディティールに宿ることを思い知らされる。

主人公ガラドリエルは16歳の少女で、スコロマンス魔法学校での2年間をたったひとりで生きのびた孤高の魔女。持って生まれた才能から、もともと他者から避けられがちな娘だけれど、2年のサバイバル生活を経て、偏屈で、皮肉屋で、怒りっぽい性格はますます悪化している。

このガラドリエルことエルの一人称で物語が進んでいくので、読んでいて正直、この癖の強い主人公を好きになる瞬間は来るのだろうか…と不安になっていたところ、物語の三分の一を過ぎたあたりで、誰もがエルにハートを撃ち抜かれるような激アツ展開がぶちかまされるのが最高。著者は生粋のストーリーテラーだと思う。

夢中でページをめくった最終章の面白さの余韻を経て、こんなに面白い小説があと2冊もあるという、めまいがしそうなほどの幸福に、久しぶりに「これを読み終えるまで死ねない」という気持ちになった。

個人的には魔法の設定の細かさが、魔術士オーフェンの作者・秋田禎信の雰囲気に通じるものがあって、そこがたまらない。オーフェンシリーズが好きだった人にはとくにおすすめしたい。



トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー/ガブリエル・ゼヴィン

 

 

子どものころ、友だちとゲームをした幸せな記憶がある全人類号泣必死の傑作小説。

 

1980年代、小児科病棟で出会い、スーパーマリオブラザーズを通じて親友となったセイディとサムは、それぞれMITとハーバードに通う大学生時代に再会し、二人でゲームを作りはじめる。二人が作ったゲームは大ヒットし、またたく間にゲーム界の寵児となるが、やがてセイディとサムはすれちがってゆく。

 

ゲーム制作をテーマとしたサクセス・ストーリーであり、30年にわたる男女の友情を描いた物語。たとえばこれが音楽やITがテーマなら、これまでにも似たような作品はあり、本作が特別に珍しい物語では無い。それでも、『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』は大傑作だといえる。単に私がそれだけ齢をとっただけなのかもしれないけれど。

スーパーマリオドンキーコングゼルダメタルギア。日本人ならほとんど誰もが聞いたことがあるゲームが、じっさいに作中でプレイされるたびに、読み手のこちらの人生まで回想されるような感覚。同じゲームを愛したキャラクターたちが、作中でめちゃくちゃ面白そうなゲームを生み出していく高揚感。セイディ、サム、マーカスら登場人物の人間味あふれる魅力と、彼らが織り成す人間模様。どれをとってもたまらないほどの見応えと面白さがあり、読んでいるあいだ、何度も胸を熱くされて震わされ、切なさに身をよじり、ときに号泣した時間は、読書で味わえる幸福のすべてがつまっていた。

 

傑作小説なのはまちがいないけれど、ここにさらに映像と音楽、とくにスーパーマリオの音が入ったものを見たら、出だしだけで号泣する自信があるので、心の底から映画化を希求している。『レディ・プレイヤー1』と『ソーシャル・ネットワーク』を足して2で割るだけでええから、はよ…!!!*1



文明の生態史観/梅棹忠夫

 

 

日本の文化人類学のパイオニアである民族学者であり生態学者であり未来学者という、ここまで肩書を足すと胡散臭くなってくるような偉大な先生の論考<文明の生態史観>をまとめた一冊。

ものすごく頭のよい人が考えたことだけれど、誰にでもわかるようなやさしい言葉で説明してくれているので、内容はまったく難しくない。高度文明国が生まれる条件とはどんなものか、社会の変化、発展の基礎にある法則を説いたもので、自分のなかにある文明の見方や世界史観がガラッと変わる、知的興奮が味わえる一冊でした。むちゃくちゃ面白かった。世界史が好きな人にはとくにおすすめ。

 

ちなみに、4月3日からNHKで放送される『3か月でマスターする世界史』のたくらみが、アジアから世界史をとらえなおすというものであったり、第1回のテーマが「古代文明の発展のカギが“遊牧民”」など、本書の内容とずいぶん重複していると思ったら、ナビゲーターの歴史学者岡本隆司先生は京大の教授なので、著者の梅棹先生(京大の名誉教授)とは普通に師弟関係なのかもしれない。

つまり梅棹歴史学は、令和のいまでも新鮮でホットということ、なのかも?

 

www.nhk.jp



 

闇の覚醒 死のエデュケーションLesson2/ナオミ・ノヴィク

 

 

1巻があまりにも面白かったので、速攻で読んだ2巻。

1巻はムチャクチャ面白かったけれど、その1巻と似たようなことしかしていないので、面白いのは面白いけれど、だいぶもの足りなかった。そして長い。585ページもある。堂々たる鈍器本。

最終章はさすがの緊迫感と興奮でページをめくる手がもどかしいくらいに面白かったし、3巻を読んだ人の感想の熱量によってこのシリーズに興味をもったので、3巻にがっかりすることは無いと思うけれど、1巻を読んだあとの燃え上がるような興奮が、2巻のあとはだいぶ鎮まっているのがやや残念ではある。

 

 

挫折した本

 

哲学入門/戸田山和久

 

 

Xでフォローしているセンスのよいおねえさんが、Kindleのセールスで本書が300円くらいになっていたときに、とても魅力的なことばで紹介されていたので買ってみた本。ことしの私の読書目標は「哲学の本を3冊読む」でもあることだし。

電子書籍なのではじめはわからなかったけれど、じつは400ページ以上あり、文章は出来るだけ砕けた調子で書いてあるけれど、書かれている内容は高度そのものという本だった。

4日くらい頑張って2章まで読んだけれど、ふいに、誰かにミリカンの目的論的意味論について説明しろと言われても、なにも答えられないくらい、この本が自分のなかになにも残してないことに気づいて、これ以上は時間の無駄だと判断して中断。これは絶対にスマホKindleアプリで読めるような本ではないと思う。

ただ、わからないながらも、現代哲学について読むことは、フィクションを読むうえでものすごく有意義なことだと感じたので、もっと自分のレベルに合った本当の入門編から読んでみたい。

 

 

ということで、3月に読んだ本と読めなかった本でした。

わりと重量級な本が多かったので、4月は哲学のリベンジもしつつ、もうすこし軽めの読書もしたい。

 

 

*1:レディ・プレイヤー1著作権交渉にかけた年数は数年だそうです