ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2024年2月に読んだ本とエンタメ

漫画をたくさん読んで、本があまり読めなかった月。

 

 

 

 

小説

 

青い壺/有吉佐和子

 

 

戦後20年くらい経ったころの、京都のとある窯で焼かれた美しい青磁の壺と、壺に関わるひとびとのすがたが、まるで壺の表面に映し出されるように描かれるオムニバス短編集。

1話~2話が面白かったので、俄然期待が高まって読み進めたけれど、私にとっての面白さのピークは2話だったので残念でした。いや、ほかの話も面白くないわけではないのだが…。

文章もとくにめっちゃうまい、というような文体でもなく、エピソードも戦後の高度経済成長期のあたりの、日本のどこにでもあっただろうという話をサラッと小粋にまとめたようなもので、人間の醜さや尊さを描いたものでもなく、有吉佐和子のファン以外は読むほどでもない内容でした。これが向田邦子なら、もっとこわいこわい話を書きそうなものだけど。

有吉佐和子の著作はまだ2冊目だけれど、全体に通じているのは「お上品な空気」だと思う。そして私は、その部分によって、この作家があまり好きになれないのかもしれない。あと一作、時代小説を読んで見定めたいと思う。



パチンコ(上・下)/ミン・ジン・リー

 

 

1910年の釜山沖の影島から、1989年の横浜まで、歴史と国家に翻弄されながらも懸命に生きる、四世代の朝鮮人親子の物語。全米図書賞の最終候補作となった、世界的ベストセラー小説。

久しぶりに大河のような長大な物語を読み、一定の満足を得たものの、じっくり考えると下巻の途中から失速した印象。移民でもなければ朝鮮にルーツを持たない、傲慢な日本人の目でただの「物語」として見るなら、物足りなさがあったと言える。本書で描かれたような物事は、当時の在日朝鮮人たちの身にじっさいに起きたことであり、エンタメとしての物差しで見ること自体が間違っているのだけれども。しかし本書は著者のルーツを描いたものではない、純然たる「小説」で「物語」であるわけで。

主にソンジャが主人公だった、朝鮮から大阪に移り住み、子どもが生まれ、戦争が始まって終わるころまでを描いた上巻は、ドラマティックで目が離せないような面白さがあったけれど、ソンジャの息子たちが主人公となった下巻からラストは、先も書いたように、途中からあきらかに失速してしまって、その後盛り上がるわけでもなく、「え、ここで終わり?」というようなところで終わった。もうちょっと、万感の思いだったり、虚脱だったりといった巨大感情が味わえる題材であり、それを予感させる筆力だったんだけれど。

思うに、「誰も悪くない」みたいな話だったからかもしれない。その地政学的な重要性から、清に支配され、一時はロシアにも支配され、その後日本に支配され、世界大戦に巻きこまれ、やっと日本から解放されたそのつぎには、共産主義者と資本主義者の対立によって戦場にされた果てに、国土を南北に分かたれた国の民にとって、誰が悪いのかなんてわからないだろうけれども。それにしても、なんて複雑な歴史を持つ悲劇的な国なんだろうとは思う。



いますぐ書け、の文章法/堀井憲一郎

 

 

はてなブログにおいて「このひとすっごく文章が上手いな」と目をつけているブログ主さんが、先日「名著である」と褒めておられたことですぐに手に取ってみた一冊。本当に名著だった。

私は世代ではないので存じないけれど、著者は週刊文春の人気コラムニストだったフリーライター。だから本書の文章法はライター向けかというとまったくそうではなく、あらゆる「書く仕事」に通じる、ライティングの本質について書かれたハウツー本だった。シナリオスクールの授業に匹敵するくらいの、頭が殴られるような衝撃を、読んでいてひさびさに感じた。やはりプロフェッショナルはすごい。



嘘と正典/小川哲

 

 

三作目の小川哲にして、小川哲の天才性に気づく。この作家は本物だ。

私は小川哲は長編しか読んだことがなかったので、短篇までこんなに達者だとは思いもよらず。むしろ短篇の名手ではなかろうか。どの作品もレベルが高かったけれど、「ムジカ・ムンダーナ」が最高だった。小川哲は東大出の本物のインテリで、きっとほとんどの読者がついてこれないような難しい作品も書けるのだろうけれど、ちゃんとそのあたりの難易度を調整して、中高生でも楽しめるようなエンタメを意識して書いてくれていそうなところが素晴らしい作家だと思う。サービス精神が旺盛。

この調子で日本の文学界を牽引していってほしい。30代の現代日本人作家でいちばん好き!



漫画

 

スキップとローファー 3-4/高松美咲

 

 

 

名作なのはうすうすわかっていたけれど、3巻でみつみが実家に帰省する一連のシーンに滂沱してしまった。こんななんでも無いシーンだけで泣かせられる作者の力量がすごい。

モデルとした地である珠洲や輪島のいまの状況との落差というものもあるけれど、人間にとっての「故郷」というものを正確に捉えて描いているからだと思う。あと自分がもういい大人なので、みつみの母親の心理についても心を寄せてしまう。またそれが上手く描けている。故郷を守りたいという夢をもって東京の私立校に出た、信じられないくらい出来の良い娘が家に帰って来て、はりきって台所に立つお母さんの背中よ…。

また、3巻でなおちゃんがミカに言う「誰かと本当の友だちになれるチャンスなんてそうそうないのよ」がすごく心に響いた。良い漫画だな~~~。



九龍ジェネリックロマンス 1-9/眉月じゅん

 

 

6巻まで読んでいたけれど止まっていたので、また一から読み直して、最新刊まで進んでみた。

私が6巻で止まってしまったのもむべなるかなと思うくらい、5巻をピークに面白さが迷走している印象。眉月じゅんさんの絵がむちゃくちゃ素敵であるという以外、なにも真新しい物語でも設定でもないと思う。あと、蛇沼みゆきの設定を盛れば盛るほど物語の邪魔になっているように感じるけれど、ちゃんと活かしきれるんだろうか。どういう風呂敷の畳みかたをするのか以外、もうこの物語には興味が無いかもしれない。



サマータイムレンダ/田中靖規

 

 

身の回りでちょっと評判だったので、今さらだけど読んでみました。

1巻-4巻まではすごく面白くて、「影」が怖くてドキドキしながら読んでいたけれど、さすがに途中からはウシオが強すぎることや、「もうそのタイムリープ設定がよくわからんから、なにがすごいんかわからん」という風に、やや興が削がれた状態でラストを迎えてしまった。

作者がゲーム好きなことが十二分に伝わってくる、ゲーム的なつくりの物語だった。私はまるでゲーム文化に触れずに来たので、主人公が何度も死んではまた始まる物語って、いまではめずらしくないけれど、毎回「そんなん有りなんだ」という気持ちになる。

それはさておき、「影」およびハイネという別次元の強大な存在と、それだけの力を持ちながらも、あの小さな日都ヶ島を支配するにとどまっていたシデのスケールの小ささが、ラストに近づくにつれてアンバランスに感じた。めっちゃジモティなラスボス。

総じて、特に新しさを感じる物語ではなかった。



映画

カラーパープル

 

💜💜💜

 

アリス・ウォーカー原作の同名小説が二度目の映画化。

85年公開のスピルバーグ版「カラーパープル」は私の母の大好きな映画で、ビデオで観るたびに号泣するのが子ども心に不思議で、そのわけを知りたくて、大きくなるごとに何度も見返してきた作品。思えば変わった子どもだった。気が滅入るほど暗くて陰惨な作品を、ひとりで繰り返し観ていた。陰惨な物語は、17歳までにだいたい観終えた気がする。

話が横にそれたけれど、そんな暗いつらい「カラーパープル」を、めちゃくちゃパワフルなミュージカル作品にリメイクした本作。とっても良かった。むしろ2020年代にこそ真価を発揮したように思えたので、不朽の名作といえるのでは。時を経ても観る者の胸をうつ真理とメッセージがこめられた作品だと思う。

85年版と違っていたのは女性同士の結びつきがより密接で、特にシュグとセリーの絆には性愛が含まれていたこと、セリーが同性愛者だったということに、今さら「ああ!!そうだったのか!!!」と合点がいった。ぜんぜん気づいていなかった。また85年版は神や信仰がほとんどテーマになかったのに、今回はそれが主題だったのも印象的。この二つはより原作を踏襲したかたちになっているらしく、つまりスピルバーグは「神」をスルーしていたという事実に驚きを覚える。

ブスで、黒人で、女でも、わたしは幸せになっていい。なりたい自分になっていい。

真の自己肯定とはどういうものかということを伝えてくれる映画だった。号泣した。



ヴァチカンのエクソシスト

 

圧がすごいのよ

 

アマプラで視聴。ホラー映画が得意でないので、自主的に二部制に区切って観ることでホラー成分の軽減に成功。キリスト教徒でもなんでもないのであんまりピンとこず(キリスト教徒ならみんなハマる映画でもないだろうが)、なんだか小学生時代の金曜ロードショーの夜を思い出すような、B級映画感たっぷりの映画だった。クライマックスの派手さなんかが特に。



総括

本が5冊、漫画が25冊、映画2作でした。あんまり本が読めなかったのが心残り。

漫画を読んでいても本が読めていないとムズムズするというか、気持ちが満足しないことを実感したので、3月以降は漫画を読むペースを落とそうと思う。映画は満足するので、もう少し観ようかな。