ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2023年12月に読んだ本

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gonzarezmm.hatenablog.com

 

12月は7冊読みました。

 

 

 

高校生からわかる「資本論」/池上彰

 

カール・マルクスの「資本論」の一部を、池上彰が高校生にもわかるように解説したもの。さいきんは中高生向けの本をよく読む30代になりつつある。

わりとくどいまでに易しく噛み砕かれた内容でわかりよかった。150年ほども前にいまの日本の経済を予言できているあたり、マルクスという人はとんでもない天才だったと言わざるをえないし、経済学それ自体がすごく面白い学問だということがわかる。

資本主義とはひたすら周縁を飲みこんで増殖していくシステムで、資本主義原理をすべてに適用させていけば、行きつく先は崩壊であるというロジックは、これまでに見た色んなフィクションを想起したり、過去100年弱に描かれた物語は「資本主義」の思想と少なくない関りがあることに気づいたりと、色んな発見と驚きがある読書でした。フィクション以外のものを読むことで、よりフィクションについてわかることが往々にしてある。

それはそれとして、もうちょっとくわしく「資本論」や経済学について書かれたものも読みたいと思いました。とても面白かったです。



太陽の子/三浦英之

 

第22回新潮ドキュメント賞受賞作。ことしはぜんぜんノンフィクションを読めていなかったので、せめてもの補給としての選書。

高度経済成長期にあたる1960年代後半から80年代前半にかけて、アフリカのコンゴでは日本鉱業の社員と現地少女とのあいだに数多くの日本人の子どもが生まれ、会社の撤退と共に母親ともども置き去りにされたという事実を追ったノンフィクション。

著者の筆力が高いことは色んな賞をとっていることからも明らかだけれど、私には正直なところ、本書で明かされた事柄の、いったいなにがそれほど驚きの事実なのか、最後までピンとこないところがありました。ふだんから日本人男性に絶望しすぎているのかもしれない。

とはいえ、コンゴで生きる修道女の佐野氏の、自分はここでなにもできないかもしれない、だけど人びとと共に歩むことはできる、という言葉には心を動かされた。著者の三浦氏の、正しく生きたいという気持ちにも。



逆転美人/藤崎翔

 

「モノマネ芸人」で度肝を抜かれた著者の前作。モノマネ芸人のほうが面白かったので、これ以上は遡らないことに決める。

もちろん面白かったし驚いたし関心もしたけれど、こういったトリックは一度でじゅうぶんなところがある。著者に非は無いが。



草の花/福永武彦

 

SNSの読書アカウントの愛読書としてよく目にする作品を満を持して。

戦前の日本を舞台とした青春小説というかなんというか…。非常に卓越した美文でつづられた、美しい物語。愛や宗教、人間というものについて深く洞察された内容ではあるけれど、私はあまり好きではないというか、これは「人間」の物語ではないよね、という感想を抱いた。だからこういった観念的な内容なのだということもよくわかるが。

萩尾望都の「トーマの心臓」を想起させる、若いときにだけ持てる「純粋」なるものが描かれていて、萩尾望都は本書に影響を受けたのだろうかとも思った。



鬼の詩/藤本義一

 

「草の花」でう~~んと思っていた気持ちが、くしくも本書によって成仏。

そう、私が思う「人間」ってこういうの!!!

汚くて、弱くて、ずるくて、みっともなくて、滑稽こそが、人間だよね~~~って深く納得した。

これはもう、私が藤本義一と同じく大阪人であることと、福永武彦が上流階級出身の東大出の令息であることとは、絶対に無関係ではないんだろう。

藤本義一の本を読むのは本書が初めてだったけれど、こんなにすごい、重油のような文章の物語を書く人だということも初めて知った。直木賞受賞作の「鬼の詩」ももちろん素晴らしかったけれど、「贋芸人抄」もすごくすごくよかった。読後のインパクトが、皆川博子レベルのすさまじい重さ。



パッキパキ北京/綿矢りさ

 

綿矢りさ最新作。人生エンジョイ勢の元銀座ホステスのアヤメは、北京に単身赴任している夫に乞われてしぶしぶ日本を離れて駐妻に。さっそく罹ったコロナにも負けず、パリピ陽キャとして真冬の北京を味わいつくす。著者の実際の北京滞在経験が活かされたフィールドワーク小説。

普通に面白かった。自分の経験がこういった小説になるのだから、綿矢りさって作家として素晴らしい場所に辿り着いたなぁとしみじみ思う。



嘘の木/フランシス・ハーディング

 

すっかりハーディングのとりこになりつつあるので、2023年の最後は絶対に本書で締めくくろうと選んだ一冊。とてもよかった!

人形(カッコーの歌)、地底人(ガラスの顔)と来て、今回の主人公は、18世紀後半のイギリスに生きる、博物学が大好きな14歳の少女フェイス。ヴィクトリア朝の上流階級の婦人となるべく教育された、大人しく控えめな見た目とは裏腹に、博物学者の父親譲りの優秀な頭脳と、燃えるような好奇心を宿しているという、この時点でハーディング史上最高にわたし好みの主人公だったので、大興奮のなかでの一気読みだった。

カッコーの歌、ガラスの顔とくらべると、本作は「嘘を養分に育ち、知りたいことを教えてくれるふしぎな木」という《嘘の木》のみがファンタジー成分を担うローファンタジー。18世紀後半という過去の時代を舞台としながらも、直球のフェミニズム、デマによる風評被害など、めちゃくちゃ21世紀にも通じる問題をテーマとしているところが見事だな〜と唸らされた。

だからこれはもはや我儘だけど、あまりに物語がうますぎるがゆえに、もうちょっと「逸脱」みたいなものがほしかったかもしれないとも思った。ハーディングは本作が8作目らしいけれど、物語をたたむ技術がもはや熟練の域に達しているので。なんならシリーズものを書いてほしい。



以上、2023年12月に読んだ本でした。

2023年に読んだ本は合計で79冊で、マンガはたぶん30冊くらい。ぜんぜんマンガが読めていないので、ことしはもうちょっとマンガを読む年にしたい。