ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

怪物的なエンタメ性と深み!2023年読書ベスト約20冊

2023年に読んだ本は78冊でした。

いままさに読んでいる最中の79冊めがフランシス・ハーディングの『嘘の木』で、もしかしなくてもベストランキング上位に食い込みそうな面白さなのですが、そうなった場合はしれっと追記したいと思います。

(※ハーディング『嘘の木』を追記しました。12月31日)

 

ことしも読んだ本に個人的な採点づけをおこなったので、点数順に発表していきます。

また、ことしは毎月ブログに読書感想記事を書いていたので、感想についてはこの場では詳しく書いていません。もし気になった方は、ぜひ検索窓から本の名前をサーチしてみてください。

 

 

 

 

85点

地図と拳/小川哲

 

思い返すとやっぱり面白かった。筆力が確かな作家だと思う。
冷酷な軍人である悪役キャラが、その人物を殺すかどうか迷ったさいに、天候が読める人間は殺さないという妙なこだわりを持っている設定がどこかジョジョっぽくて、ときどき思い出す。ああいうの好き。

 

 


近代家族の成立と終焉/上野千鶴子

 

今年いちばん知的興奮を覚えた一冊。上野千鶴子先生の本は難解だけれど、読んだあとに自分のなかで武器ともいうべき「知」が備わるのを感じる。こういう感覚を覚えるのはふしぎと大学苦教授が書いた本に限るので、来年も何冊かは大学教授の著作を読みたい。

 

 


本心/平野啓一郎
本心

本心

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今年読んだなかで1、2の美文のうえ、内容も面白いという、文句のつけようのない一冊。平野啓一郎はこれまでに3冊読んだけれど、手元に置きたいと思うのは本書かな。映画化も進行中らしいです。映画もいいけれど、本音としてはやはり新作が読みたい。

 

 


86点

帰りたい/カミーラ・シャムジー

 

これは物語としても優れているし、なによりキャラクターたちがめちゃくちゃ魅力的な小説でした。しかも内容は「ロンドンで生まれ育つも、IS国に憧れてムスリム戦士となった弟を取りもどしたいパキスタン人姉妹の話」という、非常に政治的で難しい題材を直球で扱いながらも、日本人の私が読んでもすごく心を揺さぶられるくらい分かりやすい。改めて振り返ってみても、非常に優れた作品でした。

 

 

 


世界の果てのこどもたち/中脇初枝

 

いま確認してみたら、たった386ページしかなかったとはとても思えないほど、とんでもなく濃い小説だった。
満蒙開拓団の子どもと、朝鮮人の子ども、裕福な日本人貿易商の子どもである三人の少女が満州で友情を育み、その後全員に戦争が降りかかる。
満蒙開拓団の人びとが中国に置き去りにされ、死にもの狂いで日本に帰ろうとする道程で、そのほとんどが死に絶えていくすさまじい描写に何度も泣きながら読みました。戦争とは、なにも持っていない市民がもっとも酷い代償を支払わされるということを思い知らされる。

 

 


87点


奇妙な人生/スティーブン・ドビンズ

 

読んでいる最中はけっこうだるい描写も多かったけれど、読み終わってしばらく経ってからもけっこう色んなシーンを思い返すので、なんだかんだわたしもパチーコとアントニアの倒錯した関係性に魅せられてしまったんだなぁと実感する。これは心に残りますよそりゃあ。

 

 


愛がなんだ/角田光代

 

これも「奇妙な人生」とおなじくらい異常な関係の男女ふたりの物語だけれど、それをマイルドな文章と展開でライトに表現した作品と言える。

「ほんとうに好きっていうのは、おれたちみたいなのがもの欲しそうな顔でうろついてるのは違うんじゃないかって思うんですよ」みたいなせりふの場面、良いよね~~~。角田光代はやっぱり名人でうまい。

 

 


89点


他人の家/ソン・ウォンピョン

 

「春の雪」と「箱の中の男」がとてもよかった。今後新作が出たら絶対にチェックする作家のひとりとして、胸に名前が刻まれた作家。

 

 

 

目の見えない白鳥さんとアートを見に行く/川内有緒

 

全盲の人と芸術鑑賞をすることによって、晴眼者の目が拡張されるというワンダフルな体験をとおして、芸術や障碍や生について深く考察した一冊。色んなひとに一度は読んでみてほしい本だと思う。

 

 


90点

隣りの女/向田邦子

 

本作収録の「春が来た」が、わたしの2023年ベスト短編小説。あんなに短いのに最後にボロっと泣かせる名人芸は鮮やかのひと言。もちろん「隣りの女」も大好きっ!

 

 


91点

ノウイットオール/森バジル

 

Mー1グランプリを目指す高校生を描いた「イチウケ!」がまぁ~~~~~面白かった。いまMー1グランプリを2015年から遡って観ているんだけれど、イチウケを思い出すとともに勝手に重ねて涙ぐんでしまう。

 

 

 

92点

嘘の木/フランシス・ハーディング

 

私が読むハーディングとしては3冊目、著者の7作目の作品。

19世紀後半、ダーウィンの「進化論」に揺れるイギリスを舞台に、高名な博物学者の父親譲りの頭脳と、燃えるような好奇心を秘めた14歳の少女フェイスが、父親の不審死の真相を解明する物語。

著者もベテランの域に達してきたからか、万事において読みやすく、素晴らしく面白かった。名作です。

 

 


93点

白鳥異伝/荻原規子

 


齢三十を過ぎてなお、貪るように読むほど面白い、極上のファンタジー小説。エンタメとしても完璧。日本人ファンタジー作家の頂点だと思う。

 

 


94点

ガラスの顔/フランシス・ハーディング

 

日本では荻原規子上橋菜穂子の次世代のファンタジーの書き手がいまだ現れないけれど、海外ファンタジーではものすごい書き手がいることを思い知らされた作品。この作家はすごい。

地底世界という純然たるファンタジー世界を、何の力も持たない異端の少女ネヴァフェルが縦横無尽に駆け巡り、仲間とともに絶望を打ち破る物語。読後しばらく放心したほどの美しいラストシーンがいまでも忘れられない。

フランシス・ハーディングの作品は文字でも伝わってくるくらいにビジュアルがむちゃくちゃ魅力的なので、早く映像化してほしい。予算は1,500億ドルぐらいで。(※ゲースロの最終シーズン1話の予算参考)

 

 


97点

モノマネ芸人、死体を埋める/藤崎翔

 

個人的に今年のダークホースだった、ノンストップクライムパニック小説。開始から終わりまで一瞬も中だるみすることなく、一気にクライマックスまで引っぱってくれる牽引力が抜きん出ていた。また、こういうエンタメ小説にしては珍しく文章力が安定している。

夢中になって読んで、面白かった~~~!と顔をあげたら何時間も経っていた、という読書あるあるの感覚をひさびさに思い出した作品だった。

 

 


99点

成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈

 

収録作「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのR-18文学賞」を受賞した著者のデビュー作にして、今年読んだなかで最高の青春琵琶湖小説。

滋賀県大津市という地方を舞台に、そこで暮らすただの一般人たちを主人公にすえて、これだけ面白くて心を惹きつけられるものが描ける著者の力量は並外れていると言える。順位としては2位とはいえ、「何も起きていない話」というジャンルでそれだけ面白いのはすごいことだと改めて思った。

そしてこれを書くにあたって少し調べたさいに、なんと来月待望の続編が出るということでテンションがブチ上がりました。

 

www.shinchosha.co.jp

 

絶対買う~~~~~~!!!!!

 

 


100点

ゴリラ裁判の日/須藤古都離

 

タイトルからして出オチなのに、内容は本当に「ゴリラの裁判」という斬新な設定で、物語はそれを越えていくエンタメ性と深みと哲学性を持つ、怪物みたいな作品でした。掛け値なしに面白かった。

 

 

 

以上、2023年に読んだ本ベスト17冊(キリわる)でした。

ことしも読書からたくさんの幸福を享受することができました。

あたりまえのように昨日と同じ平穏な日常がつづくわけではないということを強く思い知らされるこの頃ですが、来年も平和な日々のなかで、読書を楽しめることを願います。

ことしも一年お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。