ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2024年1月に読んだ本

1月のベストは朝比奈秋の「植物少女」です。

 

 

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー/アンディ・ウィアー

 

 

昨年のベスト本でもよく名前を見かけた、各所で大絶賛のSF小説。寡聞にもれず、むっちゃくちゃ面白かった!!!

刊行からまる2年が経っているので、結末はぼかしつつもネタバレしていきます。

 

 

 

ロッキー可愛すぎ。

 

クライマックス、ぐちゃぐちゃに泣いちゃった。

 

 

いや~~~~~もう、ほんといい話でした。科学SF部分に関しては、私はからきしなので楽しめたとは言いがたいけれど、異種族間交流/友情/愛の物語として大満足の物語でした。

あの結末にははじめは本当にびっくりしたけれど、読み終わってからジワジワと「…いや、完璧なラストだったよな、あれ…。」と思い出してはジーンと感動していました。グレースの本分は生物学者としての部分にあったのだというラスト。すっっっっっっごいよかった。映画化もむちゃくちゃ楽しみ。



ほむら/有吉佐和子

 

 

はじめての有吉佐和子。なにから読めばいいのかわからなかったので、20代のときに書いた短篇を集めた初期短編集の本作をチョイス。

天才作家の一人として誉れ高い著者だけれど、さすがに20代のときの文章はまだ不安定で、はじめは「なんだこの妙なリズムは」と、独特の文章のリズムに面食らったものの、若さゆえの揺らぎだったようで、四作目あたりからはぐっと洗練されて良くなるのを感じました。天才の軌跡が味わえるともいえる。

「ほむら」「赤猪子物語」は、どちらも「物語における男のご都合主義展開」をひっくり返して嘲笑う(でも男(権力者)には配慮する)ようなお話で、さすがに令和のいま読むと、あ~~若いな…と苦笑したくなるのが、「紫絵」あたりから凄まじい才気が感ぜられるようになり、30歳で書き直された「落陽」ではすでに作家として完成してる感がある。

まだ感動するような地点まではいっていないけれど、ほかの著作でねじふせられたいような作家。



物いう小箱/森銑三

 

 

明治生まれの書誌研究者である著者が本業のかたわら、古今東西の怪奇譚などから想を得て書いた小品(いまで言うショート・ショート)集。

以前読んだ高島俊男のエッセイで、京大の初代学長にしてすさまじい変人・狩野亨吉先生について語られたパートにて、ほんの数行引用された文章から「文章の達人」の香りがしたので、文章修養がてら読みました。文章はもちろんばつぐんに上手かったけれど、修養として読むなら有吉佐和子のほうが向いている気がする。

話が逸れたけれど、すごく面白かった! 日本と中国の話が半々で、全部で40編ほどあるけれど、どれも強度のある「奇妙な話」で心に残った。表題作ももちろんだけれど、とくに吉原に碁がめっぽう強い遊女がいて、死後碁盤に憑りつき、その碁盤が一度だけ相まみえた本因坊のもとにめぐってくる話なんて、それだけで小説のよう。「本因坊」「碁盤に憑りつく」が『ヒカルの碁』と共通しているのは、ほったゆみさんがこのお話を存じておられたからなんだろうか。非常に興味深い。



男ともだち/千早茜

 

 

女友だちとの雑談で「セフレが良い男友達でもあるという関係ってわりと至高では」みたいな話題がでて、そういうことについて書いている小説が読みたいなーと思ったときに、本書の存在を思い出して読んでみました。

が、本書の主人公と「男ともだち」は一度も性行為をせず、なんなら性行為をしたら二人は「友だち」ではないという思想のもと書かれていた作品だったので、わりとがっかりしました。あまりに平凡すぎて。

千早茜さんの本はこれで3作目だけれど、どの作品も少女漫画くさく、2014年に刊行された本書に至ってはむせそうになる濃度で、つまりあまり好みではないんだけれど、異常なくらい読みやすいところが本当にすごいと思う。



静かな人の戦略書/ジル・チャン(神崎朗子訳)

 

 

ときどきむしょうにビジネス書(自己啓発書)が読みたくなります。私は外向型人間ですが、内向型の戦いかたってどんなものなんだろうと思って手に取ってみました。

内向型・外向型以前に、著者はそもそも相当な高IQ人間なので、自分の人生の参考になるような話はあまりなかったけれど、サラリーマンを長いことやっていると、じっさいに知っている何人かの顔が思い浮かんでくるような、納得の多い内容でした。日本は昔から内向型で成功する人間が比較的多い風土であると思う。

内向型・外向型ははっきりと二分されるものではなく、人間はもっと複雑なグラデーションのなかに生きており、私自身も内向・外向の両方の特徴をもっているけれども、とはいえどちらかというと外向型の戦略で生きていったほうがいいのかな…? とも思いました。

また、なんとなく思っていた、「SNSではめっちゃ面白いひと、会ってみるとあまり面白くない」の法則が証明されていてちょっとすっきり。

SNSもブログも小説も、ほんものの内向型の人間がやっているものは、私など及びもつかない面白さなので、その点は心から羨ましいなぁと思う。



植物少女/朝比奈秋

 

 

1月にして確実にことしのベスト5以内に入るであろう作品。

昨年くらいから「朝比奈秋」の名前を一部で見るようになったのも当然で、著者は2021年デビューの新人作家であり、本作は2冊目の著作。にもかかわらずこのレベルなので、この作家は日本の文学界が全力で守って育てていくべき本物の天才作家だと思います。

読みながら、本を読んでいてこんなに深い、静かな気持ちになるのは10代のころぶりかもしれない、と思わされるような引力と、普遍のテーマ性と真実を描いた、ひさしぶりに読む「本物の小説」。

個人的には小川洋子や、ジャネット・ウィンターソンの「オレンジだけが果物じゃない」をどこか彷彿とさせる雰囲気を感じたので、海外でも高く評価されそうだと思う。

内容は、自分を出産するときに脳出血をおこして植物状態となった母親をもつ女の子・美桜を主人公とした物語。特殊な世界のなかで現れる人間の普遍性を描いた作品です。



アーモンド/ソン・ウォンピョン

 

 

日本でソン・ウォンピョンが初めて広く知られることとなった作品。本屋で表紙を見かけたことがあるかたも多いのでは。

生まれつき偏桃体に異常があって、怒りや悲しみといった感情がわからない少年・ユンジェを主人公とした物語。

とても良いYA文学で、読書初心者におすすめしやすい作品だと言える。が、ソン・ウォンピョンののちの作品「プリズム」や「他人の部屋/四月の雪」に比べると、惹句の「涙が止まらない」は言い過ぎかなとも思う。普通に良かったです。



以上、1月に読んだ本8冊(7作品)でした。

映画は「ダンジョン&ドラゴン」「長ぐつをはいたネコ」「ペルシャン・レッスン」「カラオケ行こ!」の四作を観たし、マンガは「違国日記」の6巻-11巻、「推しの子」の1巻ー12巻を読んだので、けっこう色んなものを味わった月だった。

2月は読書会に行くので、課題図書のミン・ジン・リー「パチンコ」を読むのを今から楽しみにしている。