ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2023年7月の読書記録

初めての文学フリマの原稿が昨晩まで終わらなかったため、7月が振り返れません!!

ということで、今回はさきに読んだ本の記録だけ残します。7月もとても良いお店との出会いがあったので、それについてはのちほどまた書いていきます。

それでは先月読んだ本をササっと。

 

 

 

ソン・ウォンピョン『プリズム』

 

 

『アーモンド』『三十の反撃』ですでに日本の文壇ではおなじみの、韓国文学の旗手ソン・ウォンピョンの邦訳3作目。私にとっては初めてのソン・ウォンピョン。

韓国文学はちょこちょこ読んでいるけれど、この作家もとても良い。ソウルで暮らすそれぞれに問題を抱えた大人4人が出会い、関わりあうというありきたりで普遍的なストーリーだけれど、センスがよく、シーンの切り取りかたにはっとさせられる。韓国は30年前から映画づくりを国策としてきただけあって、アカデミー賞やネットフリックスでめざましい躍進を遂げているけれど、文学にもそんな映像的な視点がよく現れている気がする。

 

 

田辺聖子『古典まんだら(上)』

 

 

田辺聖子文学館で、いかに田辺聖子という作家のバックボーンに日本の古典が染みついているのかを知り、がぜん興味がわいて、まずは田辺聖子みずからが古典について手ほどきをする本書を読みました。

数年前からSNSなどで古典クラスタが古典の魅力を広める草の根活動をしてきたこともあってか、令和のいま古典は再興ブームにあり、来年の大河ドラマ紫式部が主人公の「光る君へ」と、まさに大活況。

田辺聖子が自分で古典文学の『隼別王子の反乱』や『落窪姫物語』をリメイクしたのが40~50年前であることを考えると、その先見性というか、もはやいまにつづく古典ブームをつくった一人であるとも言えますが、なんにせよ、物書きとしての力量の確かさを感じます。

田辺聖子の代表作『乃里子三部作』や短編集『ジョゼと虎と魚たち』『孤独な夜のココア』は、書かれてから何十年が経っても色褪せない、普遍的な魅力を備えた「強い」物語だけれど、その強度は、田辺聖子が千年読み継がれてきた物語である「古典」を愛し、親しんできたことに深く関わっていることを実感した一冊。読みやすくて息抜きにもぴったりでした。

 

 

今村夏子『星の子』

 

 

ちょーーーーーーー読みやすかった。しかも面白くてラストに心がえぐられる。今さら私が言うまでもない、ド名作でした。

今村夏子は『こちらあみ子』『むらさきのスカートの女』しか読んでおらず、どちらも気持ち悪かったのであまり進んで読みたい作家ではなかったけれど、本書が面白かったのでほかのものも読もうと思う。

 

 

杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』

 

 

SNSなどでの感想の盛り上がりかたから気になって読んだところ、まんまといっぱい食わされました。これはとんでもなく凄いミステリ小説!!!

ネタバレ厳禁なので、詳しいことはこれ以上書けない…という事情は、忙しいときの読書感想時においてとてもよい口実になりますね。

 

 

ティーブン・ドビンズ『奇妙な人生』

 

 

ホモソーシャルどっぷりのボーイズクラブの同窓会が開かれる夜。会場は皆のリーダー格で、1,000人の女を抱いたとも噂される色男で外科医のパチーコの屋敷。しかし折しも内戦が勃発し、屋敷に到着したのは主人公をふくむ三人だけ。パチーコの書斎には、美しい女性の写真が飾ってある。パチーコはいまだに独身だが、この美女は誰なのか。三人が想像を逞しくしながら尋ねると、パチーコはあっさりと答える。彼女はアントニア・プッチーニ。いまそこで給仕をしてくれているやつれた中年女性その人であり、パチーコは彼女の人生を破滅させたのだと。そして、彼の口から二十年に渡るアントニアへの愛憎と異常な執着が語られると共に、三人の男たちの人生の暗部も暴かれていく。

面白かったです。90年代に出版され、いまでは絶版ですが書評家の川出正樹氏が人生のオールタイム・ベストに挙げていたり、作家の深緑野分氏が偏愛していたりと、知る人ぞ知る名作といえるのではないでしょうか。

屈折した愛、激しすぎる執着、倒錯と支配、異常な関係性でつながる男女などなど、そういったものが好きな人には非常におすすめ。こういう世界にどっぷり浸れるのが小説の魅力でもあるなーと再認識した一冊。面白かった~。



以上、5冊でした。さすがにあんまり本にかまけていられなくて少なめです。
いまは石牟礼道子の『苦界浄土』を読んでいますが、むちゃくちゃ良いですね。初めての石牟礼道子、最高。