ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

『三体』三部作を読破したので好きに語りまくる(ネタバレ感想)

 

三体』三部作が完結したのでマシーナリーとも子と「三体面白かったよね会」をやりました:マシーナリーともコラムSPECIAL(1/2 ページ) - ねとらぼ

 

世界中で大ヒットを飛ばす、中国産傑作SF小説『三体』を読み終わりました。
第一部を手に取り、最終巻『三体Ⅲ  死神永世(下)』を読み終わるまでにかかった日数は、なんと延べ31日間。一ヶ月以上ものあいだ腰を据えて付き合ってきた本作には愛着もひとしお。また完結してしまった寂しさを消化するためにも、ここでひとり『三体』完結祭り~ただ好き勝手ダベるだけ~を開催したいと思います。ネタバレしまくりますので、これから『三体』を読みたい方は自衛をお願いします!

 

 

 

 

 

『三体』ここが凄かったよね

 

 

おなじみの起承転結が無い

 

凄かったと共に、たった2,005ページに31日間もかかった理由がこれ。

慣れ親しんできた従来の物語のテンプレート的な起承転結構造が無いことにより、ひじょ~~~にとっつきにくかった。
物語を読んできた経験が多いほど、物語を読んでいると「そろそろ承(転)が来るな」という感覚がはたらくものですが、『三体』ではその勘が一切通用せず、第一部のひたすらに続いていく万里の長城がごとき「起・起・起・起・起・・起・起・・起・起・起」には、ぐったりして何度も逃げ出したくなりました。
もう本当に、いつになったら物語が始まって面白くなるのか、果たしてこの物語は本当に面白いのかと疑問すら沸いてくるほどで、これほど評判の高い物語でさえなければ、確実に挫折していたことかと思われます。

とはいえ、起承転結形式が物語のオーソドックスになりすぎている状態もよろしくなく、あまりにも「起承転結」を正しく則りすぎていることで逆にうんざりしたのがジェフリー・ディヴァーの『ウォッチ・メイカー』で、2021年の直木賞を受賞した佐藤究の『テスカトリポカ』もまた、従来の起承転結構造をあえて無視するような作品でした。起承転結に縛られていない『三体』は、それだけ物語として自由であり、その自由さが本作の魅力の根幹であったとも言えます。

 

 

スケールがクソデカ


『三体』を語るうえで外せないのが、そのスケール。さすがは中国ということなのか、物語のスケールが でっかい!

SFはスケールがデカければデカいほど良いので(ほんとか?)、中国×SFは最高の組み合わせかもしれません。
なによりもそのスケールのデカさを実感させてくれるのが、各自陣営の攻撃。
第一部のタンカー船のなます斬り、第二部のちょう強くてでっかいボール攻撃による宇宙艦隊全滅、そして第三部の三次元ぜんぶ二次元化攻撃。
回を増すごとにスケールがでっかくなっていくわ、毎回こちらの想像をはるかに凌駕するわで、非常に楽しかったです。こんな攻撃の発想は、ただ賢いだけでは絶対に思いつかない気がするので、劉慈欣先生は素晴らしいバランスの頭脳の持ち主なんだと思う。すっごい賢いけどバカっていう。

 

 

読んでいて無駄に感じる部分が多すぎ


これは悪口のようで褒めていると見せかけて悪口なんですけれど、『三体』って本題に特に関わってこない無駄な部分がめちゃくちゃ多いんですよ。日本だったら編集部が削らせているだろう部分が丸ごと載っている感じ。

どんなに無駄で冗長に見えても、実はそれは緻密に配置された伏線で、後々の展開に活きてくる…みたいなことが、本当に無い。第一部で三体世界についてひたすら説明されてきたことも、後々の展開に一切関係が無いし、ましてや第二部のはじめに羅輯(ルオジー)が妄想の彼女とデートしていた部分なんて、まるごとカットしても何ひとつ物語に影響しない。

さすがの私も第三部下巻の頃には慣れてきて、えんえんページを割いてくわしく説明をしている木星都市の部分では「あ、これは絶対読まなくても問題ないやつだ」と判断が出来て、お茶漬けを食べるくらいの感覚で目を通して済ませたし(サラサラ~)、あんのじょうあれほどまでに細部にわたって考えられ造形された木星都市が、破壊されるシーンすらなく消滅したことについては、劉慈欣先生って本当に思いきりがいいなと感心しました。

 

 

『三体』の好きなキャラについて

 

『三体』で好きなキャラについて語っていきます。

 

羅輯(ルオジー

誰も異論は無いと思います。ルオジーかっこいいよ~~~~!
登場当初は理想の恋人を妄想しすぎるあまり、実生活の人間関係まで破綻するというやばい夢男子ぶりを発揮し、見ているだけでイライラする妙ちきりんなキャラクターでしたが、それが突然面壁者(ウォールフェイサー)となり、さらには破壁者(ウォールブレイカー)であり、実は三体世界がその死を望んでいる唯一の地球人であることが判明してからは、その「何を考えているのかが分からない」ぶりが最大の魅力となって、読者の心をつかんで離さないキャラとなりました。
ちょっと頼りなくて、情けないようなへらっとした笑い方が似合う、なのに妙に太々しくて、どんな場にいてもひょうひょうとしていて、何を考えているのかまるで分からない…そんな二部の下巻から68年、執剣者(ソードホルダー)として再登場したシーンのかっこよさが異常。200歳を超えても一人称「ぼく」なのも最高。本当良いキャラだわ~~~。

 

 

トマス・ウェイド

見た目がスマートで頭も切れてスーツが似合うのに心が野獣っていうギャップよ。
人類を守るためならどんな極悪非道な所業も人類に出来る、悪魔のような男なのに、「おれは約束は守る」っていう律義さよ。かっこよすぎか。
こんなにド派手なキャラなのに、最期は虚無の目でボロ雑巾が捨てられるようにあっけなく死ぬ。このバランスのすごさも劉慈欣先生の天才性よね。

 

 

史強(シーチャン)

百戦錬磨の煙草くさい屈強な元軍人にして、『三体』唯一の癒し担当!
君のおかげで『三体』に彩りがあったと言っていい。強い! かっこいい! 可愛い! 好き!!!
劉慈欣先生もお気に入りだったのか、史強については、いつどのように死んだとかもなく、はじめからいなかったかのように歴史の合間にそっと埋もれるように退場していった。(それが劉慈欣先生の最大の優しさなので…)

 

 

艾(アイ)AA

モブキャラのように登場していつの間にか第三部の主人公程心(チェンシン)の唯一無二の相棒の座にそっくり収まったつよつよギャル
チェンシンに対しては海のように際限のない愛情を惜しみなく与えるのに、チェンシン以外の人間には極めて現実的かつシビアに接するところが最高。
私の想像では、アイAAはきゃりーぱみゅぱみゅみたいな見た目で、髪色はしょっちゅう変わるけれど基本ピンク髪、チェンシンの部屋に泊まる時は当然のように同じベッドで眠ります。
『三体』の女性キャラは第二部まではごく普通にミソジニー色が反映されていて辟易としたんだけれど、第三部でアイAAのようなかっこいい女性が登場したのは、舞台が未来という設定だからなのかな。このへんの切り替えもすごいな~。

 

 


ラストについて

 

関一帆(グァンイーハンだけど、セキカズホって読んじゃう)のことだけは、ほんまになんでお前が出てきたんって、初見の衝撃が大きすぎて今でも反射的に【?】が頭に浮かぶんだけれど、あのすさまじい終わり方では、もはやこれくらいの違和感があったほうが逆に締まるのかなって。(知らんけど。)

私は一切知らないけれど、これって新エヴァのラストでシンジくんはマリちゃんとくっ付きました、みたいなことなのかなと。(マリちゃんに失礼???)


正直、あの壮絶な太陽系の終わりのあと、関一帆とチェンシンの暮らし&再出発エピソードが続くくらいなら、アイAAとティエンミンが石に字を彫ってるところのほうが読みたかったな…と思っていたのですが、すべてを読み終わったあと、もう一度『雲天明のおとぎ話』のラストを読み返し、そのメタ的仕掛けに気づいて心の底から痺れました。やっぱりすごい物語だなぁ。(となると、カンおばさんはアイAA?)


『雲天明のおとぎ話』、傘のモチーフが何を意味しているのか、意味などないのかを知りたいんだけれど、誰か頭のいいオタクが考察していないのかしら。今後のメディアミックスによる盛り上がりとご新規さんの参入に期待したい。Netflixドラマはほんとにほんとに楽しみ!!!

 

 

ネットにあるライターの方々の三体感想会がすごく面白い

 

 

ねとらぼのライターさんによる記事。

 

・『三体』三部作が完結したのでマシーナリーとも子と「三体面白かったよね会」をやりました

 

nlab.itmedia.co.jp

 

 

三体を読み終わってはじめに読んだんだけれど、サイボーグVTuberなるマシーナリーとも子さんの感想がはちゃめちゃに面白くてずっと笑った。

 

 

「人生とはエビの背わたを取るような、コツコツとしたことを積み上げていくしかないんだな……」って思ったね。われわれのちっぽけな人生ではエビの背わたを取るくらいしかできない。取っていきましょうよ、背わたを。

しげるそれくらいしかできないね、人類には。まあ、お前はサイボーグだけど……。

とも子:そう。背わたを取るように基礎研究を積み上げていくしかない。死だけが永遠なんだから、それまで楽しく生きながら背わたをとって、その結果を最後に岩に刻めばいいんだよ。「私はエビの背わたを取りました」って……。

 

このキレッキレのとも子さんが、関一帆のことを百合に挟まるクソ男(概念)とぶった斬っていて痛快。そういう見方もあるのか…!

 

 

ハヤカワにおける、翻訳者のお一人である大森望さんと、いとうせいこうさんのトークイベントの書き起こしもむちゃくちゃ良かった。

 

 

・大森 望×いとうせいこう 『三体』シリーズ完結記念トークイベント採録

 

www.hayakawabooks.com

 

中国本国ではルオジーの次に人気なのは意外にもトマス・ウェイド(ぜんぜん意外じゃないよ?!)とか、ルオジーの妄想彼女の下りはまじでいらねぇという納得しかない話、チェンシンはプロットの時点では男性キャラだった(どんな話になったのか見当もつかない)とか、それはもう読みごたえがあって面白い記事でした。

 

 

ということで、ひとり『三体』完結祭りでした。

『三体』は売れていると言っても、日本での売上は50万部強で、私の周りで『三体』を読んだなんていう人は本当に一人も見当たりません。いつかリアルで誰かと『三体』について語り合えるといいな。で、「ソフォンのあの謎の日本描写なんなん」とか言いたい。

 

おわり