ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

2023年11月の読書記録

坊主も走る師走なので、言葉すくなに、粛々と読書記録。

 

 

 

デイヴィット・レヴィサン『エヴリデイ』

 

 

2018年の海外YA小説。

もし朝目覚めたとき、別人の人間の体になっていたとしたら? そんな空想をしたことはないでしょうか。本作の主人公「A」は、毎日同い年の人間の体で目覚め、その体で一日を過ごし、またべつの体に去って行く存在として発生して以来、ずっとそうやって生きている。発生から5994日目、ついに「A」はある女の子に恋をする。

奇想天外な設定を巧みに使ったファンタジー恋愛小説。わりと面白かった。これは絶対に映像映えしそうだなと思ったら、やっぱりすでに映画化されていたけれど、あまり話題にならなかったみたい。

こうまでも面白い設定を使ってもテーマを「恋愛」にしてしまうと、ごく普遍的というか、結局ぶちあたる問題はごくありふれているというのが物足りなかった気もする。401ページとけっこう長い物語なんだけれど、280ページくらい(細かい)でよかったのでは?と思う。



多崎礼『レーエンデ国物語 月と太陽

 

 

講談社から全5巻刊行予定の大型ファンタジー物語の第2巻。1~2巻の売れようから、めでたく最終巻まで出版されることが決まったそうです。

ということで、遠慮なく本音の感想を言わせてもらいます。

よく書けているし、ぜんぜん面白くないわけではないけれど、名作には遠い。

多崎礼の作品はほかに『煌夜祭』『血と霧』を読みましたが、本作がいちばん作家としての拙さを感じました。

1、2巻ともに600ページ程度の大長編にも関わらず、深みがない。

著者は、本当の表現は「表現しないところ」に宿るという、表現の本質を理解していないと思わざるをえない。

行間から伝わってくるものが決定的に欠けているから、のっぺりした、深みのない物語になっている。5行の内容を1行に凝縮しきるという業もない。

本当に頑張って、人生を懸けて書いていることは伝わってくるし、よく書けているとは思うけれど、素晴らしいファンタジーに必要不可欠な神性がないので、私はハマれませんでした。

 

ということで、3巻以降を読むかは未定。3巻では608ページの2巻の内容を数行でおさらいしたと読んだので、5巻だけ読んでもなんとかなりそうな気はする。そうまでして読みたいのかはわからない。

荻原規子上橋菜穂子のようなファンタジー作家の後継は出て来ないんだろうか。個人的にはけっこう残念。



平野啓一郎『マチネの終わり』

 

 

数年前、この作品が映画化したことで、私は著者の名前を初めて知ったのですが、福山雅治石田ゆり子が主演のパリが舞台の恋愛映画という時点で「そんな辻仁成の二番煎じみたいなもん、ぜってぇ趣味じゃねえ」と判断し、平野啓一郎に興味をなくしていました。が、『ある男』『本心』が辻仁成からかけ離れていたために、本作を読んでみる気に。こうして考えてみると、おっさんが書いた恋愛小説って、私がもっとも読まないジャンルである。

平野啓一郎についてはけっこう作家として信頼していて、過去に書かれたという本作も、きっとよくある安直な恋愛小説ではないのだろうと期待していたけれど、まさか5年間でたったの3回しか会わず、結ばれることがなかった男女の恋愛小説だとは想像しませんでした。意外だったからというわけではないですが、非常に面白かったです。

平野啓一郎といえば、レトリックが天才的に詩的かつ独創的、そして美文という印象だったけれど、本作はまだ『本心』の域に達していなかったことも予想外でした。ということで、いまのところ『本心』がいちばん好き。



高島俊男『本が好き、悪口言うのはもっと好き』

 

 

中国文学の研究者による1995年刊行のエッセイ。講談社エッセイ賞受賞作。

中国文学だけでなくもちろん中国史にも詳しい、博覧強記の知識から紡がれる雑学や蘊蓄、日常のことなどが縦横無尽に書かれておりむっちゃ面白い。

漢字はそもそも非常に複雑な発音を有する中国語に沿って開発された文字で、それをまだ言語体系が赤ちゃんレベルだった日本に無理やり導入し、さらに欧米の用語に対応できるように単語を増やしたことばだからいろいろおかしなことが起きる、もしも日本に漢字が持ちこまれなければ、日本語の言語体系に沿った独自の文字が発明されていた…という解説には目からウロコが落ちました。

また李白杜甫などの漢詩は、中国語の405個の発音と4つの声調があってこそ伝わる音楽性豊かな文学だから、文字だけでは真価が理解できないということも初めて知りました。

新聞に対することば遣いを指摘する章はわりと辟易したけれど、全体として非常に面白く、こんなにもずばぬけた知性の持ち主って、近ごろではとんと見なくなったと思う。著者が日本が豊かだった時代に学術を探求できた研究者だからなのか。



全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』

 

 

同人誌でSFものを書くかもしれなかったとき、なんかネタになりそうな話無いかな~と手に取ってみたけれど、SFは書かないことになったし、そんなに有用なエピソードもなかった。世界ってふしぎで面白いよね~という、軽い読みもの。やはり読みやすい本から得られるものは少ないんだな、と反省した。



須賀敦子『ミラノ 霧の風景』

 

 

11月に読んだのは最後の2章だけで、購入はなんと2月だった。そういえば3~4月に読んでいた記憶がある。これも講談社エッセイ賞、かつ女流文学賞受賞作。

Amazon幸田文の『流れる』のレビューを読んでいるときに「こんなに美しい日本語を読むのは須賀敦子以来」という一文が目に留まり、流れるようにポチった一冊。文章が美しい作家の本を読むのは私の趣味であり、名も無きレビュアーさんはみんな師匠。

師匠が称賛するとおり、尋常じゃないくらい美しい文章の妙技を味わる極上の名エッセイでした。

いまはもうその姿を変えた、1960年代の霧が立ちこめるミラノ、二度と会えない愛しい友人たちの思い出が、柔らかい、知性豊かな筆致で語られる。ここではないどこかへ連れてくれて行ってくれる大人の一冊。名作です。



以上、11月に読んだ6冊でした。

またしても同人誌のしめきりが迫ってバタバタしているので、11月の振り返りはできないかもしれない。11月-12月でまとめてしまうか、すごい簡単に書くか。11月は目立って出かけず、ほぼ毎日紙の日記を書いていたので、ブログにあえてべつで書くことがそんなに無いかもしれない。(なのになぜ同人誌の原稿がいまだに書けていないんだ?!!??!!)

 

2023年の最終月、一日いちにちを大事に過ごしていきたい。