ごんブロ

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92巻無料配信の『ONE PIECE』を読んで、ウソップのすごさを再発見した

6月27日からワンピース92巻無料配信キャンペーンが開催されている。

 

www.shonenjump.com

 

本キャンペーンは6月27日から7月31日までの期間限定で、6月27日から7月10日に1話~303話(東の海~空島編)、7月11日から24日に304~597話(水の都から頂上戦争)、25日から31日に598~931話(魚人島からワノ国)を配信する。

この祭りに7月5日から参加して、ひたすらワンピースを読む日々を送っている。

私は小学生の頃からワンピースを読んでいたけれど、エニエスロビー編の途中(399話だった)で読むのが止まり、それ以降はWikipediaピクシブ百科事典などで情報を得ていた。またどこかでワンピースを読みたいとは思っていたけれど、あまりにも長いとなかなかそれも叶わず、あきらめていた矢先に今回のキャンペーンが始まったので、ありがたく読ませてもらっている。

とはいえ私にはワンピースの他にも色々と読みたい本があるので、本当はシャボンディ諸島編が始まる500話あたりからスルッと読みたかった。けれど前述のように厳しく期間が区切られているため、なんやかんやで1話から読み返している。

さすがに冒頭のあたりは四半世紀も前に描かれたものなので、何もかもが古く思え、楽しむというよりも、消化するといった具合で読んでいた。

ところが、とあるキャラが登場したとたん、突然ワンピースという物語がキュッとしまって「完成」し、面白くなるのを感じた。ウソップである。

 

ウソップの嘘【ネタバレ】 | ワンピースの秘密

 

 

これは20数年ぶりに読み返すことで、初めて得た気づきであるとともに、自分でも驚きの発見だった。麦わらの一味の「完成」はルフィ、ゾロ、ナミの三人の時点ではまだ成されず、ここにウソップが加わることで初めて仕上がるのである。

 

何が? と言うと、会話である。ワンピースを1話から読み返していて、私はずっと、何かワンピースでないものを読んでいるような気がしていた。この物語はまだ「ワンピース」になっていない、そんな物足りなさ。

それが、ウソップおよびウソップ海賊団の子どもたちが登場して、ルフィ、ゾロ、ナミとの会話が生まれた瞬間に解消し「あ、いまワンピースになった」と、ピースがはまった感覚を覚えたのである。(具体的に言うと、「お前らのキャプテンなら…喰っちまったよ」「鬼婆ーーッ‼‼」「なんで私を見んのよ‼」のくだり)

これは感覚的なものなので、分かってもらうのは難しいかもしれない。分かりやすい言葉で説明するなら、ワンピースをワンピースたらしめている大きな要素はギャグで、そこにはウソップが不可欠ということである。

 

とはいえ、ウソップはただのギャグ担当ではない。それは登場回であるシロップ村編を通してすでに明示されている。ウソップは己の嘘つきとしての筋を通すため、クラハドール率いるクロネコ海賊団が村を襲うことを「嘘」にする覚悟を決める。

ルフィとゾロはあの時に、ウソップという人間に惚れた。だから何もかもが終わったあと、ゾロは「何言ってんだよ早く乗れよ」と言い、ルフィもまた「おれ達もう仲間だろ」と言うのだ。この二人(特にゾロ)がそんなことを面と向かって言ったキャラは、あとにも先にもウソップだけである。どれだけウソップというキャラが、二人に、何より作者にとって重要なのかを思い知らされるシーンでもあった。

 

ルフィとゾロが惚れたウソップの優れた資質とは何か。強さではないことは一目瞭然である。あの時点でのウソップは、一般人と変わらない身体能力しかない。二人が惚れたのはそこだ。ルフィとゾロのように、特別膂力に恵まれてるわけでもないのに、自分よりもはるかに強いことが分かっている、おそろしい敵に立ち向かう。そのたぐいまれなる勇気こそが、ウソップのもっとも優れた資質なのである。

敵わないことが分かっている敵に、なおも挑めること。最後まであきらめないこと。それは膂力とは関係の無い、心の強さであり、ウソップにはそれが備わっている。だからルフィとゾロは、はじめからずっとウソップのことを対等な仲間だと認めている。

しかし、あまりに何もかもが強靭な仲間たちに囲まれ、何度も災害級に危険な敵を相手にしては敗北を喫するうちに、ウソップ自身さえも麦わらの一味における自分の価値を見失う。

その結果がウォーターセブン編での仲間割れである。自分の弱さのせいで大切なお金を守れず、自尊心がずたぼろとなったウソップが言う「弱ェ仲間はいらねぇんだろ‼」は、血が噴き出すようなウソップのつらさが表れたせりふで、読んでいてむせび泣くとともに、物語の構成のうまさにつくづく感心した。

そうしてエニエスロビー編でのラスト、ウソップは「自分にしか出来ないこと」で、絶体絶命の仲間のピンチを救い出すという最高のカタルシスを迎え、読者の誰もが納得できる『麦わらの一味』のメンバーとなる。

けれど私の目から見ると、ウソップが麦わらの一味のメンバーたりえる要素は、戦闘力ではなく、地に足着いた豊かな人間味であると思う。狙撃技術はあくまでもついでで、みんなの「友だち」であるところ、船のメリー号でさえ、生身の人間と同じように慈しむその優しい心が、ウソップが絶対に『麦わらの一味』に居なければならない所以なのだと思う。

 

小学生から高校生の間に読んでいた頃は、正直言ってウソップは眼中に無いキャラクターだった。

大人になってワンピースを読み返すことで、ウソップの魅力に気づけてとても嬉しい。

あと言わずもがなのことですが、ワンピースはめちゃくちゃ面白くて楽しい。

 

勇敢なる海の戦士!