今月は3週目くらいまでは精力的に活動していたわりに、4週目はぱったりと引きこもっていたりと、落差が激しいひと月だった。出かけないのはいいとしても、何もしないと気持ちが腐ってしまうので、家にいるにしてもちゃんと消化するタスクを用意したほうがメンタルに良い。
ということで今月の振り返りです。
1week
月曜日に京橋のカフェ『Nagarabbit Cafe』を訪問。名物のキャロットケーキとチャイをいただく。
店主は同い年の男性で、カフェのほかに『劇団ながらびっと』も主催しているという多芸多才な人物。話しているうちに日曜日にマーダーミステリーをやることを知り、私も参加させてもらうことに。
その後のいきさつは以下に詳しい。
マーダーミステリーのあとのタコパ。
最後にわたしの希望で神経衰弱をする。神経衰弱は、会社の先輩(3児の母)に、久しぶりに子どもと神経衰弱をしたらボコボコに負けた、30代の記憶力がやばい、と聞いてやりたくなったんだけれど、本当に短期記憶がえげつないほどに衰えているのがわかり、めちゃくちゃ恐ろしかった。
店主の森永さんは私と同い年にも関わらず、相当数のカードを取っていたので、私も年齢を言いわけにせず短期記憶を鍛えることを決意する。(決意だけでその後何もしていない)
週なかばにつみたてNISAを単月に約一年分ツッコむ設定をしたり、個人的な年間予算を策定したりしていた。
つみたてNISAについてはトピ主閲子さんの記事を読んでやった。1月に読んでいれば12ヶ月分出来たんだけれど、まぁ仕方がない。
2week
ヨガ教室を寝坊で欠席する。私にはまれによくあることだけれど、ヨガ教室でやったのは初めて。レッスン料金がまるまるキャンセル料金になるという痛恨の出費に落ちこむ。
金曜日、起き抜けから胃腸炎。下痢と腹痛はわりと我慢できるけれど、吐き気には耐性がないので会社を休む。病院で薬をもらい、二日安静にして治す。
日曜日、京都の古書会館で「古本まつり」なるイベントがあったので遊びに行く。
ちなみに私には京都で西條八十の詩集もしくは与謝野晶子の歌集と運命の出会いを果たしたい、という欲望があるんだけれど、そこまで具体的に欲しい本がある人間は、どう考えてもネットで探したほうが早くて、今回も出会えず。
古書会館を出たあとに行った『レティシア書房』のほうがかなり好みの品ぞろえの本屋で、小川洋子の「アンネフランクの記憶」が売ってあったのでそれを買う。
お昼を食べた『微風台南tears2』さん。
お店の奥には小さい中庭があって、畳の座敷で台湾料理をまったりいただく。
実家のようなゆるさと美味しさのクオリティと価格の安さのギャップがすごいお店。時間が無くてゆっくり出来なかったんだけれど、ここはリラックスしに行くお店だったので、時間に余裕のある時にまた行きたいな。
その後は慌ただしく3年ぶりに京都在住の友人の家におじゃまする。前回会った時は0歳児だったお嬢さんがすっかり3歳児になっており、手土産のフルーツサンドをもりもり食べていた。すくすく育っておくれ。
3week
バレンタインデーに初めての宝塚歌劇を観劇をするけれど、さりとて感動もせず。
美しく装飾した美しい女性を見て「はーー。綺麗だなぁ」とは思っても、それ以上の想いを抱きようが無いのであった。
芦原妃名子『セクシー田中さん』6巻が発売される。
だいたい一年に一冊しか発売しないので、発売するとめちゃくちゃ嬉しい漫画。
今回もまーーーー良かった。笙野の素直なせりふ「今度旅先で「彼ら」と出会ったら話しかけたいと思います」に思わず涙。『セクシー田中さん』はまっすぐな言葉がつまっていて、読むと泣いてしまうことが多い。
本巻から物語は終盤に向けての畳みかけが始まっていて、ほかの芦原作品を見るに本作も10巻で完結予定なのかな。
読み終わったあと1巻から読み返してみると、この物語は朱里・田中さん・笙野の3人が主人公なんだなーと思わせられた。
土曜日、天満の燻製&スパイスバーでひとりでごはんを食べながら、文学フリマ大阪の参加申し込みを済ませる。緊張と興奮で気持ちが盛り上がる。
ごはんはいまいちだった。
4week
仕事で近くまで来たので、南港ATCホールに行って夕焼けを眺める。
肝心の夕日はさんふらわあが遮っていてあまり見えなかった。雲も出ていたし。
万人受けしそうなマイルドめのエスニック料理。トムヤムクンが絶品だった。タイ料理って「ここで酸味と甘みを入れるのか…!」という、料理の世界の広さを奥深さが感じられて大好き。
漫画版『神々の山嶺』を読む。
夢枕獏の物語をちゃんと読むのはこれが初めて。谷口ゴローの緻密な山の絵が本当に凄まじい。登山だけをテーマとした物語ではもちろんなくて、生きるということ、仕事というものについての本質を登山を通して描いた物語であるからこそ、いつの時代の誰が読んでも胸を揺さぶられる作品なんだと実感した。ものすごい名作。とても面白かった。
Twitterのリアルタイム感想
『神々の山嶺』、登山だけでもむちゃくちゃ面白いんだけれど、ネパールでヴィクトリア十字章を授与された老グルカ兵が登場したり、山岳カーチェイスシーンまであるの、夢枕獏が「好きなもの、ぜんぶ詰めこみましたが?」って澄んだ瞳で言ってそうで笑う
— ごんちゃろ (@cardamomlover) 2023年2月23日
元々『神々の山嶺』に興味をもったきっかけがオーディブルのポッドキャスト『アトロク・ブック・クラブ』で金田淳子先生が紹介していた、というせいもあるんだけれど、それを差し引いてもあまりにブロマンス、BのL、どホモソーシャル物語であったと思う。https://t.co/xqjrw3wn5D
— ごんちゃろ (@cardamomlover) 2023年2月24日
私もだいぶ終盤までエヴェレスト登山の物語として読んでいたのだが、その終盤から疑いようがないほど男→男の物語となっていて、もはや羽生丈二の最愛の人間は岸文太郎だった、という仮説のもと読み解いた方が、スルッと理解出来る物語なのではないかというくらい男⇆男物語。エヴェレストが霞むレベル
— ごんちゃろ (@cardamomlover) 2023年2月25日
羽生と涼子が再会した夜、アン・ツェリンが「行ってこいよ」と羽生の背中をパンとたたくシーン、今思うと二つの意味合いがある
— ごんちゃろ (@cardamomlover) 2023年2月25日
「この色男!」的なありがちなホモソしぐさと、「裏切るなよ」という意味
まぁ前者だろうけれど、後者の可能性もある。おててしか繋がなかったのではなく、繋げなかったのだ
今月の反省
・日曜日に遊びすぎて疲弊すると、水曜日のヨガに行けないので、今後はそれを踏まえてレッスンを予約する。
・病院に行くような胃腸炎にはもうこりごり。1月も食べすぎで胃腸炎になったけれど、それがあとを引きずっていたのかも。30代のこれからは「私は胃腸が強くない」をスローガンに、腹八分目を心がけて生きていく。あと今月は睡眠6.5時間~7時間が取れていない日が9日もあったので、ちゃんと早く寝る。
読んだ本
吉村昭『星への旅』
ノンフィクション作家の名人である吉村昭が、実はめちゃくちゃ優れた短篇小説もいくつか残していることは、他の作品の知名度と比べると、あまり知られていないように思います。
そんな珠玉の短篇『少女架刑』『透明標本』『鉄橋』、太宰治賞を受賞した『星への旅』ほか2作収録。いずれも傑作揃いなので、本棚に置いておきたくて買い求めました。
吉村昭って、前のアレを書いてるあいだにコレを書きたくなったことが一目瞭然の、設定や登場人物が似た作品がわりと多いのですが、これだけ完成度が高ければ焼き直しなんて何の問題も無いんだなと、感心してしまう。初めて読んだ『透明標本』がほんとにすごかった。
岸田政彦/柴崎友香『大阪』
社会学者にして作家でもある岸田政彦と、芥川小説作家の柴崎友香が交互に「大阪」にまつわるエッセイを書いたエッセイ集。
ものすごく良かった。
岸田政彦さんは18歳で名古屋から大阪に来て、それから30年大阪で暮らしている。柴崎友香さんは大阪市大正区で生まれて30歳くらいの時に東京に出て、15年が経とうとしている。
それぞれの見てきた、過ごしてきた大阪の風景が、とろとろとたゆたう淀川のような語り口で語られる。
人間が過ごすことで生まれる都市の風景、積み重ねられてゆく時間と体験、そして消えていく風景というものについて、ひたすら思いを馳せるような言葉たちに、圧倒され、胸を打たれる。そんな読書でした。
懐かしい、という言葉だけではとうてい言い表せられない、切なさ、後悔、愛しさについて書かれた本。なんだかものすごい本でした。著者たちのほかの作品も読みたい。
この本を読み終わって、ふと思ったのが、百人一首の10番『これやこの 行くも帰るも別れては 知るも知らぬも 逢坂の関』って、社会地理学というか、人文地理学的な情感を描いた一句だったんだなということなのですが、誰か分かってもらえるでしょうか。
三宅香帆『(萌えすぎて) 絶対忘れない!妄想古文』
三宅香帆2冊目。
京都大学で万葉集の研究をしていた著者が、古文への愛を綴るとともに、古文の世界の奥深さ、面白さを伝える。河出書房の「14歳の世渡り術」というシリーズから出た本で、中学生向けなので本当に読みやすい、そして面白い。
清少納言と彼女の主・藤原定子の話はすでに山本淳子『枕草子のたくらみ』を読んで知ってたのに、何度読んでも泣けるくらいドラマティックで熱い。
定子という女性がいなければ、当然『枕草子』は生まれなかったし、一条天皇は普通に彰子との間に子ども作っていただろうから、そうしたら『源氏物語』だって書かれなかったし、だったら管原孝標女も『更級日記』を書いておらず・・・と、えんえんとバタフライエフェクトを考えてしまう。平安文学の要石・藤原定子。どんな女性だったんだろうなぁ。(いや枕草子に書いてあるんだけど)
千早茜『しろがねの葉』
第168回直木賞受賞作。戦国末期の石見銀山に生きる女と男の物語。
非凡な視力を持って生まれた少女ウメは、一家離散の憂き目に遭うが、石見銀山の山師の男に拾われ、やがては己も銀掘りを目指す。
少女の目を通して描かれる男たち、石見銀山の姿は瑞々しく魅力的で、最初から最後まで非常に読みやすかった。
近ごろの物語はジェンダーを問い直すようなものが多い中、本作はむしろ「女」という性をあえて旧来のまま真っ向から描くことで、女性の強さを浮き彫りにした作品と言える。
つまり、真新しさはなかったとも言える。明治には女性の炭鉱労働者がかなりいたというだけに、私はてっきり本作で吉村昭の『高熱隧道』のような掘削労働描写が読めるものと期待して読み始めたんだけれど、肝心の間歩で働く描写がほとんどなかったことがとても残念だった。
千早茜さんはほかに『透明な夜の香り』しか読んでいないものの、今回のウメが夕鶴と対峙して夕鶴が「羨ましい…」と泣くところや、龍のどイケメン設定なんかに、とんでもなく濃厚な「少女漫画」の香りがするあたり(それもそんなに古くない、85年~90年代くらいの少女漫画…!)、千早茜さんの核にあるのは少女漫画なのでは…? と勝手に思っている。
誰か編集者、千早茜さんに少女漫画を語らせる企画を持ちこんでくれ~~~。
カミーラ・シャムジー『帰りたい』
パキスタン系イギリス人の著者による、ロンドンで生まれ育ったムスリムの3姉妹弟の物語。2017年ブッカー賞最終候補作にして、米国でも話題騒然となった作品。
めちゃくちゃ面白かった。自制心が強く理知的な姉イスマ、その9歳年下の美貌の妹アニーカと、アニーカの双子の弟で、ロンドンを出奔してイスラム国に参加したパーヴェイズ、アニーカに恋をする青年エイモン、エイモンの父でイギリスの内務大臣カラマットの5人の視点で1章ずつ物語が展開するんだけど、登場人物全員がめちゃくちゃ魅力的。
ジハード戦士として死んだ父親を持つムスリムの家族がロンドンで暮らす不自由さ、多種多様な人種を抱えて成り立つイギリスという国の複雑さ、国家があるからこそ厳然として存在する「国籍」、国籍によって変わる人間の扱い。
日本で生まれて日本でだけで暮らしてきた私にとっては、考えたことも無かった現実がフィクションとして鮮やかに描かれていて、目が覚めるような作品でした。そしてその結末が、なんとも凄まじい・・・。何が起きたのかすぐには分からなくて、しばらく本を開いたまま放心しました。
どこにでもいる家族の話でありながら、イギリス、パキスタン、ISILという国の話でもある。カミーラ・シャムジーの作品は本作が日本初翻訳だそうですが、今後の作品にも大注目していきたい。
早瀬耕『彼女の知らない空』
初めて読む作家さん。ときどき『未必のマクベス』がとても良いという評判を聞くので気になっているけれど、なにせ613ページもあるので、まずは短編集のこちらから読んでみることに。
表題作は憲法九条が改正されて初めて殺人を命じられた自衛隊員の苦悩を描くストーリー。題材がとてもいいだけに、筆力が追いついていないことが惜しい作品。『思い過ごしの空』も、同じ大手化粧品メーカーに務める夫婦のうち、妻の研究が軍事転用されることを知った夫の懊悩を描くものだけれど、妻のキャラクター像が「20年前にこういうキャラをよく見たな」というような陳腐なもので、全体的に薄っぺらい印象が拭えない一冊でした。この作家の描く女性キャラクターがこれなら、長編恋愛小説である『未必のマクベス』は絶対に合わないことが分かったので、本作から読んだのは正解でした。ラストの『彼女の時間』はわりと良かった。
以上、2月の振り返りと読書記録でした。