ごんブロ

だいたい月に一度、本や映画の感想を書きます

人間ははがすことが好き

いきなり性癖の話で恐縮だが、私は「はがす(peel off)」という行為が大好きである。

子どものころから家族の日焼けしてめくれた背中の皮を夢中でむしっていたし、今でも乾燥した自分の唇や指先の皮を無意識にむしっている。愛犬の雄のプードルは時々体に小さな黒いかさぶたをこしらえるので、愛犬が困り果てた目で私を見ていても、それをむしらずにはいられない。(※かかりつけの獣医に相談した上での行為です。黒いのはすこし心配だが、取れるのなら問題ないとのこと。取れない黒いできものは要注意!)

 

自分の体の皮膚をむしらずにはいられない行為を「皮膚つみとり症」といい、自傷行為の一種なのでやめられない場合は精神科にかかった方がいいという話も聞くが、これは私には当てはまらないと思う。

というのも、私が自分の皮膚をむしっていてもっとも悦びを覚えるのは、乾燥して自然にめくれてきた皮を、血を出さずにつるりときれいにはがせた時だからだ。こういう時、私は達成感と充足感を得られる。逆に、ひとたび血が出たり痛みを覚えたりすると、失敗した、はがすのが一、二日早かった…などと後悔に苛まれる。

 

ところで、私は今築四十年の古い木造住宅に住んでいる。一階のほとんどは二十年前にリフォームしたが、私が寝起きしている部屋は畳以外そのままで、この年代に建てられた住宅によくあるように、壁は土壁である。この土壁は三年前に家族の手によって、一部が漆喰で塗りつぶされたのだが、素人の仕事が悪かったのか、その後に起きた地震のせいかは分からないが(おそらく両方)、ひび割れたところからどんどん漆喰が浮いてくるという事態になった。

ここまで言えばもう分かると思うが、先日、私は出来心から漆喰をはがしてしまった。

漆喰は触った感じは石のようだが、実際の硬さは濡れて固まった紙くらいのもので、ちょっと力をこめると粉々になるくらいもろい。それでも、コツをつかむとだんだん大きくはがせるようになり、最大で葉書大サイズの漆喰をごそっとはがすことが出来た時は心が震えた。私は二晩をかけ、全体の20%近くの漆喰を夢中ではがした。白い漆喰が切り裂かれたかのように、中のどんよりとした色の土壁が露わになったところを改めて見て、私はしばし呆然とした。明らかにやりすぎである。

漆喰をはがしてしまったことに後悔したわけではない。どうせ漆喰はひび割れていたし、いつかは塗り直さなければならないのだから、それがちょっと早まっただけだ。そうではなく、私は自分の中のはがす行為への「好き」の深さが可視化されたような有り様を見て、我ながら圧倒されたのである。

これはもう、好きという範疇を超えているのではないか。私ははがすのは性癖だと思っていたが、違うのではないか。これはもはや、本能に根差した行為なのではないか。

思い返せば小学生の頃も、校舎の壁のペンキが乾いてひび割れてきたところを、夢中ではがしてしまったことがある。

人間が何かを「はがす」のは本能なのではないか。そんな疑問を抱いた私は、さっそくインターネットに問いかけてみた。本能ではがすのなら、人間の2-3歳児もきっとはがすことが好きなはず。たちまち、下記のYahoo知恵袋の記事が見つかった。

 

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 

ID非表示さん

2010/11/18 15:40

4回答

子供はシール遊びが好きだといいますが、息子は貼ることよりも剥がすことの方が好きみたいです。 (簡単に剥がせないシールでも根性で剥がす) 他の子は貼ったらそれっきりですか? 気になったので質問しました。

子育ての悩み・4,801閲覧

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ベストアンサー

 

質問を含めてたった5例しかないが、その中に保育士の知見が入っていることが心強い。これだけで決めつけるのはあまりにも早急とはいえ、やはり子どもははがすことが好きなのだろう。

ではなぜ、好きなのか。いつから人間はこの行為をするようになったのか…そこまで考えて、ふとひらめく光景があった。

グルーミングである。

 

 「グルーミング 猿」の画像検索結果

 

グルーミングは単なるノミ取りといった衛生目的だけではなく、コミュニケーションとしても用いられる。これを社会的グルーミングという。犬、猫、馬、コウモリなどもするようだが、やはり顕著なのは霊長類だろう。猿は起きている時間の20%近くをグルーミングにかけているという報告もある。それだけグルーミングは猿に欠かせない行為なのである。

グルーミングと剥がすという行為がどう繋がっているのかと言えば、似ているのではないかという私の実感一つでしかないのだけれど、猿がやらずにはいられないグルーミングという行為が、ホモサピエンスの雌の私の中に今も残っており、それが自分の皮膚だけでなく、ついには漆喰をはがさせたのではないかという考察は、わりと信ぴょう性があるのではないかと考えながら、今日もはげっぱなしの漆喰を見つめています。

 

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